同じ演目を二度観るのはこれが初めてですが、いやあ、楽しかった!可愛かった!複数回観ることによって出る味もあるし、新たなキャストによる発見もあるし、何よりこの演目、大好きで、多分何度観ても飽きないだろうなという確信が持てました。つい数時間前までドン・キはバリシニコフ版だと思っていましたが、ワシーリエフ版、最高です。ウヴァーロフと東京バレエ団も最高!今、とても幸福な気分です(注:終演後三時間経過時点)。

キャストは以下の通り

キトリ/ドゥルシネア:ガリーナ・ステパネンコ  バジル:アンドレイ・ウヴァーロフ

ドン・キホーテ:芝岡紀斗  サンチョ・パンサ:飯田宗孝  ガマーシュ:古川和則

メルセデス:遠藤千春  エスパーダ:高岸直樹  ロレンツォ:窪田央

若いジプシーの娘:斎藤友佳里  ドリアードの女王:西村真由美  キューピッド:武田明子

 因みに私はこの日、幸運なことに時間に余裕があって、かなり早めに会場入りしたんですが、もうその時点で豪雨のため常磐線が止まってましたし、その後落雷でほかの線も止まったらしくて、開演が若干遅れました。それを思うと、私にしては珍しくラッキーだったなと思います。大抵そういうの、引っかかる生まれつきなので(^^;)

 それとこの日、客席が豪華だったんですよね。ルテステュ&マルティネズ、ルグリ&デュポン、フィーリンとコホウトコヴァもいたかな…ここでもルグリ、振る舞いが紳士然としていて(ちゃんと周囲の女性みんなに座って貰ってから、自分も腰を下ろすんですよ〜)、いい人なんだなとちょっと感動。

 プロローグは、前回何となく観ていて記憶から脱落しているのですが、今回は肩に白いタオル(むしろ手拭?)をかけてお仕事中のウヴァーロフ可愛さに、目を引かれました。みーはーと言われればそれまでなんですけど、正統派の貴公子である彼が、気風のいい下町の青年をどう演じるか、とても興味があったんです。結論から言うと、なんだか可愛かった(笑)。あんな大きなものにこの形容詞をつけるのもどうかと思いますが(苦笑)、本当に。ダンスール・ノーブルを完全に返上して、明るく元気でノリノリ状態。この時点から、登場人物全員が全身で会話をしていましたね。もう、五月蝿いくらい元気。


で、バジルは「あとちょっとだからさ」と断りながら、一応仕事に手も抜けないし、「どんなもんでいっ!」とドン・キホーテの髭をあたっているわけです。で、やっとお終い、肩のタオルで汗を拭き、自信満々で鏡を差し出した瞬間、あろうことかキトリが髭剃りクリームのボウルをドン・キホーテの頭にぶっちゃける。間が絶妙で、会場から笑い声も出ていましたよね(私も笑った)。「参ったな〜」と頭を掻くバジル。一方キトリは、自分をドゥルシネア姫だと思い込むドン・キホーテに対して、「どうしたもんかしら?」と首を傾げる。「とりあえず、相手しといてあげれば?」とバジル。調子に乗ってお姫様のふりをするキトリ。でも、段々バジルの方から「って、このおっさん何する気だ?」となってサッサと出て行ってしまう。その後のドン・キホーテとサンチョ・パンサのバタバタも、今回は非常に楽しく観られました。

 広場のシーンからは、このバレエの真骨頂!それぞれにパーソナリティを持ち、その場で生きてたくさん喋るコール・ド・バレエに、可愛い子役たちの登場です。もう、キッチンボーイたちが可愛くって!それにこの演目は、いつも舞台中のあらゆるところで何かが起こっていて、どこを観ていいか分らないくらい。真ん中でキトリやバジルが踊っていても、脇で喋っている人たちもいれば、子供たちが何かしていることもある。背景に近いあたりで踊っている人もいる。それでも全体を観れば統制が取れていて、でも小さくまとまった感じはしない。それって凄いことですよね。

本音を言うと、まだ最初のところでは、ステパネンコ&ウヴァーロフは凄いんだけど、流石に前回の斎藤&高岸と違って、東京バレエ団と一心同体という一体感、連続性には欠けていたと感じました。でも、一番感じたのは、世評に言う通りの舞台の狭さ。あれだけ人がいて、色んなことをしていて、しかも真ん中にステパネンコ&ウヴァーロフという大型のカップルを配置するには、あまりにも舞台が狭くて窮屈そうでした。ダンサーには誰にも罪が無いだけに、ちょっと勿体無いですね。東京文化会館は、日本で一番バレエ向きの床材を使ったいい舞台だとは聞いているんですが…でも、やはり二人とも演技力はありますね。踊りは多少馴染まなくても、ガマーシュやロレンツォをあしらう辺りは本当に活き活きしてて、私の頭の中は彼らのためのフキダシで一杯。「ねえ〜お父さん、許して」とロレンツォに甘えてみるキトリと、何故か一緒に甘えてみるバジル(爆)とか、ガマーシュがキトリの手にキスをするので、鬱陶しがってバジルがキトリを引き離すんだけど、気がつかないガマーシュにキスされてしまって「げーっ!何するんだ、汚いじゃないか!!」と派手なリアクションをしてみたり。この場面ではありませんが、ガマーシュの帽子を奪い取って、現れた剥げ頭にキスをしてみたり。このバジルはいつものウヴァーロフが見せる演技より若干若く、一人称もいつもの「私」じゃなくて多分「俺」。くどいようですが、非常に気風が良くて元気でキュート。一方キトリは、元々凄く強いダンサーだと思っていましたが、女王然としているところもあり、姐御肌。ガマーシュをソデにするところ、扇子で横っ面を叩いたりするのが実に様になります。

折角のステパネンコ&ウヴァーロフが勿体無いと思う反面、素晴らしかったのが東京バレエ団の面々。メルセデス&エスパーダは、井脇&首藤の方が適役だとは思いますが、遠藤メルセデス、高岸エスパーダもそれぞれ素敵でした。この二人からは、本当に強烈に「ここが自分のホームグラウンド、ここが一番踊りやすい仲間たちとの場所」という印象を受けました。もう、自由自在にやりたい放題。そしてやはり、このカップルは大人の味があります。キトリとバジルのギターの踊りは、本人たちは駆け引きの積りでも、所詮はお遊び。本人たちが、ハッピーエンドのつもりでじゃれてるんですもの。一方メルセデスとエスパーダのは、正真正銘恋の駆け引き。失敗したら相手に見捨てられてバッドエンドもアリです。そんな大人の踊りですね。


 この辺りの場面は、コール・ドも凄かった!タンバリンを持っての街の人々の踊りは、こっちまで体が動いてくるくらい楽しくて、でも何よりも、統制の取れた集団が生み出す迫力を感じました。闘牛士の格好良さは相変わらず。高岸さんに率いられてカポテを翻す場面の鮮やかさは、何度観ても目を奪われます。因みにこの日、短剣の踊りで何故かなかなか剣が床に刺さらなくって。一発で決まると本当に格好良いんですが、最後の一本、二度突き立ててもダメで、結局闘牛士が間に合わず、通りかかった高岸さんが刺してました(笑)。うーん…バジルとエスパーダの差別化という意味では、明るい感じの高岸さんより、色っぽくて露骨に伊達男な首藤さんの方が良いですかねぇ…短剣の踊りも、井脇さんの方が迫力があったかも。ちょっと影が足りないかな、という感じです。


 あ!でも、別キャストでも素晴らしかったのがガマーシュの古川さん。彼の演技には私、本当は声をあげて笑いたかったですよ。個人的に、ガマーシュはスネ夫の遠い祖先だと信じているんですが、かなりそれっぽかったです。サンチョ・パンサの角笛に耳をふさいで出てくる辺りなんかは、本当に、よくやってくれました!という感。オーバーで、微妙にカマっぽくて、高笑いをしたまま後ろにのけぞって転びそうな感じがすごくしました。そのくせ格好をつけたがる辺りが憎めないんですよ(笑)。

最初こそ戸惑いがあったようですが、流石にそこはプロ。主役カップルも、第一ヴァリエーションの辺りからノッてきます。片手リフトで長い制止をやってみたり、ウヴァーロフらしくもなく(そしてドン・キらしく)、派手な見せ場も作っていました。ウヴァーロフ、黒タイツがよく似合いますね。ちょっと太めの脚が引き締まって綺麗に観えます。で、バジルの回転は、いつもの柔らかく優雅なものではなくて、精悍で鞭のようにしなる、鋭いもの。ぎゅんぎゅん音がするくらい。回転を繰り返しながら奥から前に出てくる動きは、本当に圧巻。彼の真骨頂です。サポートの的確さは最早言うだけ野暮。二場と三場の間のアダージョは本当に綺麗でした。それとこの時、立て膝のままリフトなんかをしていました。ちょっと珍しくてびっくり。


そうそう、二場の終わりからは、キトリ&バジルとメルセデス&エスパーダが一緒に行動しますよね。ウヴァーロフ・バジルと高岸エスパーダ、背格好の面でも非常にいい感じなのですが(ウヴァーロフが190超なので、隣りが並みの身長だと見栄え的にまずいでしょう。その点、高岸さんだと190弱あるので)、雰囲気もすごく良くて、仲の良い友達なのが一目でわかります。演技ではなくて、二人が本当に友達で、何か喋りながら肩を組んで歩いているみたい。


まあ、この演目の登場人物は全員、最初から最後まで素晴らしい勢いで、全身で喋り続けますけれども…それとこのバレエ、タンバリンにギター、カポテに扇子にと非常に小道具が多くて、ダンサーの方々は苦労されるそうです。腕は疲れるし、使い終わったら投げ捨てでどこ行くか分らないし。何でもボリショイの公演で昔、使用済みのタンバリンをゴルバチョフ書記長(当時)に当てちゃった人が居たみたいで。それは前回公演のパンフに書いてあったんですが、その時高岸さんが、ウヴァーロフはタンバリンを投げるのが上手いって言ってらしたんですよね。何だそりゃと思いつつ、内心楽しみに待っていたタンバリン投げ。いやー、放物線どころか、真っ直ぐに素晴らしい勢いで、袖まで飛んで行きましたわ。確かに凄かった。あれ、どこまで飛んだんだろう。当たったらタダじゃ済まないでしょうに(笑)。

三場は私の大好きな、ジプシーの群舞から始まります。隅っこで何やらお喋りするメインの四人がとってもいい感じ。「ほら、踊ってるよ。ちゃんと観ないとダメだろ」なんて。そのうちエスパーダの短いソロが入って、「バジル、お前もお前も!」となり、二人でジプシー男たちの間に入る。二人とも、ああいう歯切れの良いダンスもいけますね!格好良かった。そしてこの場面の出色、斎藤友佳里さんの、若いジプシー娘の踊り。恋に破れて狂った娘でしょうか。情熱的で、悲愴で、痛ましいほどの狂気が迸る。足首まで隠れるスカートを穿いて、跳躍はなし、回転も最小限、斎藤さんの最大の長所である軽やかさは、出せないし、出してもいけない。でも、女優性だけでも観る価値のあるダンサーだと痛感。ダンサーとしての幅の広さを感じました。出は一瞬ですが、前回を数倍上回る素晴らしい踊りでした。

それから仮面劇。いや、ウヴァーロフが袋(笑)を被せられて出てきた時、「ああ、貴方アンドリューシャでしょ。隠しても無駄よ。その綺麗な脚はなあに?」という感じでしたね。足元の使い方が、本当に軽やか。そして、仮面を剥がれて布袋の衣装だけ被って逃げていく様子は、アンバランスさがまた可愛かった。だから貴方、袋を被るには大きすぎるんですってば(笑)。

ドン・キホーテの夢の場面。ここはもう、キューピッドの愛らしさに尽きます。正直に言えば、ステパネンコのドゥルシネアはあまりにも強すぎて柔らかさが不十分という印象を受けました。安定感と技術力は、本当に圧巻なんですけどね。ドリアードたちも、純クラシックで迫力を出すには半歩足りない。でも、キューピッドを演じた子役の子たちといい、武田さんといい、本当に天真爛漫、抱きしめたくなるような可愛らしさです。キューピッドを演じる女性って、不思議と小柄に見えますよね。ユニセックスで、軽やかに上がる脚が気持ち良い。それと子役の子たち。この演目は、本当に子役が活きてます。子役を使うのって、実は難しいと思うんです。所詮子供だからっていう、下手な踊りでは当然ダメ。変に芸達者過ぎても可愛くないし、子供を使うあざとさが出てもダメ。でも、このキューピッドたちは、子供でもこんなに踊れます、という部分と、当たり前の子供らしさと、子供が踊るからこその可愛らしさを、すごく高いレベルで揃えていて、ここは子役じゃないと絶対ダメ、とまで思わせるくらい。踊った彼らと、使ったワシーリエフに拍手!

二幕一場は酒場のシーンから。ここの見せ場は、やはりエスパーダとメルセデスのファンダンゴでしょう。フラメンコ風の味付けが濃い、非常に色っぽくて格好良い踊り。高岸さんの力強さがよく活きていました。そういえばウヴァーロフ、この時横で拍手してましたよ。ほかにもキトリのソロに拍手を入れたり、振付けと本人の感情、両方混じってそうな気配です。「お前たちも何か踊れよ」と促されて踊り出すキトリとバジル。ダイビングキャッチは圧巻でした。凄い迫力。でもこれ、キャッチミスしたらどうするんだろう。受け止める側への負担もハンパじゃないだろうし……


 それはさておき、この場面の出色はやはり狂言自殺。前回は「こんなもんか?」と思いましたが、今回は会場全体からクスクス笑いが出るくらい、すごく楽しかった。黒マントを羽織り、短剣を持って出てくるバジルは、オーバーに振舞ってるんですが、ちょっとだけマントがアルブレヒトっぽいというか、いつものウヴァーロフに戻ってるというか(笑)。で、大袈裟に騒いだ挙句にざくっと自分の胸に突き刺したフリ。みんなして「ぎゃあ!」とストップモーション。バジル、ひょこっと顔を上げて回りを確認します。「よしよし、大丈夫、みんな騙されてるな。じゃあ、剣をここに置いて、床に寝るのはイヤだからちゃんとマントを敷いて…」これも変に動きが可愛かった。その後も、脚が長いせいで「本当に死んでるの?」と脚を持ち上げられ、「死んでるのよ!」とキトリが下がらない脚を無理矢理下げる場面なんかも、変に笑えましたし、嘘泣きするキトリにさっとハンカチを渡すところも、微妙に彼らしいと言えばらしいし(笑)。何よりも、ロレンツォに「結婚させてやれば良かった」と言わせた後、跳ね起きて踊る場面の有頂天さ加減は何よ(爆)。溌剌と動く体の歯切れの良いこと!アンドリューシャ、こんな踊りもするんだな〜と微笑ましく観ていました。

終幕。再び登場するキューピッドたちは、何時まで観ていても飽きないですね。もう、可愛いったらない。エスパーダとメルセデスは、遠藤&高岸の場合はここが一番色っぽいでしょうか。それからお待ちかね、グラン・パ・ド・ドゥ!高岸バジルもこの場面でぐっと大人の雰囲気になりましたが、ウヴァーロフもいつもの彼に戻りましたね。やはり彼の真骨頂はアダージョでしょう。姿勢が綺麗だから決めポーズが素晴らしく美しいし、やっぱり「いたれりつくせりサポート」ですし。それに、リフトが本当に高くて綺麗。リフトを上げている時、特にそのまま歩く場合、男性の方だけ間の抜けた動きになることが殆どなんですけど、彼は本当に、何をしても様になるから凄い。ソロとコーダはもうちょっと暴れて欲しかった気もしますが、カブリオールはダブルで入ったし、空中で脚を打ち付ける「ビシッ」という音が聞こえました。凄まじい精悍さと迫力。キトリのソロも、斎藤さんの見せた愛らしさより、相変わらず女王然とした色気と余裕で見せてくれました。でも、どうやら二人とも、ドン・キらしい技の見せ付けあい対決をするよりも、最小限の動きで見せるべきものを見せて、後は東京バレエ団に花を持ってもらおうと思っていたんじゃないでしょうか。最後のほうで、ガマーシュのピルエット(踵のあるシューズで四回転!)に拍手をしているウヴァーロフを観て、なんだかそんな気がしてきました。カーテンコールで東京バレエ団を前に出して、自分は後ろから観ていた時にも。

で、最後の見せ場は実はカーテンコール。三回目か四回目だったと思うんですけど、事件は起こりました。アンドリューシャ、貴方、何緞帳に挟まれてるの(爆)?!ちゃんと逃げなきゃダメじゃない。立ち位置を間違えたのか、あんまり拍手が大きくて戻るタイミングを逸したのか、どっちか知らないけど。しかも一瞬、中に戻ろうか外に出ようか、迷ったでしょ?背中に「うわー、やっちゃった」って書いてあるの、ちゃんと読めたよ(笑)。とろいとろいと思ってたけど、まさか本当にこんなにとろいなんて(爆)。でもその前にも、貰った花束を、めちゃくちゃ格好つけてステパネンコに捧げたり、その後にも落ちた花弁にキスをして渡したり、バジルごっこをたくさんやって、笑いを誘っていましたけど。本当に、この日の彼は、踊ってないところが可愛かった!子役の子に声をかけてあげたり、いい人なところも見せてましたしね。

とにかくあまりにも楽しくて、あっという間に時間が過ぎていきました。たくさん手を叩いて、笑って、何回ブラボーと叫んでも足りない気分。全体的に雰囲気が暖かく、最後に行くに従って主役カップルが東京バレエ団に溶け込み、気の合う仲間同士が結束して踊っている、という印象が残りました。前回は、やっぱりボリショイって凄かったんだ、とちょっと寂しくなったんです。勿論、これぞバレエ、本物のクラシックバレエを観た!という充実感、圧倒的な感動はありません。でも、このドン・キはバレエという枠で観なくても面白いし、素晴らしいと思います。理由はさっき書いた通り。気心の知れた仲間たちが、心を結んで力を合わせて、心底楽しみながら踊っていました。だからこそ、あれだけすべての人が、絶え間なく何かを喋っている。舞台の上のあらゆる人物に、命、性格、存在意義がある。それって本当に凄いことだと、私は思うんです。

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