気が付けば、ほぼ1年ぶり近くで生のバレエを観に行きました。そうなってしまった理由は、ひとつはプライヴェートが多忙だったこと。もうひとつは、愛着のあるダンサーたちが次々引退して、大枚をはたきたい相手が少なくなってきたこと。今回も、家族に誘われて腰を上げました。でも、やはり私はボリショイが好きだな、と思った。そして、この演目を観ておいて良かった、と。前回、ボリショイがこの演目を持って来日した時のキャッチコピーが「これが天下のボリショイだ」でしたが…ある意味、最も端的にそれが分かる演目、かもしれません。

 

キャスティング

スパルタクス:イワン・ワシーリエフ  フリーギア:スヴェトラーナ・ルンキナ

エギナ:エカテリーナ・シプリナ  クラッスス:アレクサンドル・ヴォルチコフ

 

 「スパルタクス」自体は、映像を何本か観ています。全幕では、ムハメドフとセメニャカのもの。部分では、同じくムハメドフとベスメロトノワ、ベロゴロフツェフとカプツォーワ(確か)、マクシーモワとワシーリエフの初演カップルも。だから、これは色々な演目に言えることだけど、正直、目は物凄く奢っています。

 それと、数年前に観たワシーリエフ(今回踊る方)は、あまりに身勝手で力づくで、雑なダンサーという印象だったので、正直不安でした。記憶にある範囲では、ヴォルチコフにしても、端正だけど印象が薄いダンサーだったし。女性陣にはかなり期待はしていましたが…

 結論から言えば、男性2人は、最高の意味で期待を裏切ってくれました。

ワシーリエフは、もちろんまだ若くて直情なスパルタクスだけど、決して周囲から浮き立たずに芝居をする方法を身に着けていたし、回転なども以前の身体能力任せではなくて、きちんと軸を取っていた。その上で、圧倒的なパワーやジャンプ力を見せつけてくれたので、とても爽快でした。何回かある、ジュデで一直線に進んでいくシーンは見事でした。出来れば彼にはボリショイに居て、あと10年、この役を踊り続けて欲しかった。そうしたら、きっと歴史に名を残すスパルタクスになれたでしょう。モノローグのシーンなどは、まだまだ改良の余地があると感じましたから。そこが残念です。

ヴォルチコフは、序盤こそやや存在感が薄かったけど、じわじわ効いてきました。この役は、難しい悪役だと思うんですよ。女に糸を引かれている、情けない奴でもあるから。貴族だから、ノーブルでなければいけないし。その、端正さとあざとさの微妙な一線上を、きちんと渡ってくれた彼は、決して決して、かつての影が薄い王子様候補ではなかった。今、恐らく最も過不足なくこの役を表現出来るダンサーになっています。

一方、女性2人はまったくの期待通りでした。

フリーギアは難しいヒロインだと思います。何しろ出番が少ないし、圧倒的に派手な、エギナという悪女が同じ舞台の上に居るから。その点ルンキナが素晴らしかったのは、立っているだけで清楚で美しいこと!飾りの無い衣装だけに、その抜きんでた美貌(全身の。雰囲気まで含めて)がよく分りました。モノローグのシーンなどを観ていても、ぼちぼちベテランの領域に差し掛かりつつある年齢だけあって、一日の長を感じましたしね。でもやはり、フリーギアはリフトされた時の脚が美しくてナンボの役ですから。その美しさの中に、キャラクターまで落とし込めないと駄目だと思いますから。だから、彼女でいいんです。

エギナを上手くやることは、実はそんなに難しくないのかも、とたまに思います。バレエ史上屈指の強烈な悪女なので(振付的にも)、あざとくやればそれなりに様になるのでは、と。シプリナが何処にそのあざとさを持っているかというと、彼女のエギナは、半分くらいのシーンでは、とても女性的で柔らかいんですよ。それと、残り半分の、男性的で強靭な表現の使い分けが見事。だからこその悪女です。

時代が変わり、多くのダンサーが去り、あるいは去ろうとしているボリショイです。凄く寂しさを感じることもあります。でも、それでもやっぱり、私はボリショイが好きでしたし、彼らはこの演目を、相応のクオリティで守っていてくれた、と感じました。これだけの重厚感を持つ男性群舞は、やはりボリショイならではだし、色彩的には一片の華やかさも無いこの舞台が、それでも崇高な美しさを放つのは、振付そのものの魅力と、それを生き切るダンサーたちの輝きが、高いレベルで保たれているからでしょう。

私が次にいつ、どの演目でどんなキャストでボリショイに再会するかは謎だけど、その時もその先も、ボリショイにはこうあって欲しいと、心から思います。

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