思えば、随分長くかかったものです。バレエファン歴9年目にして、初熊川哲也。別に避けていたわけではないのですが、「いつでも観られる」感があまりに強かったため、いつも先送りしてきたのは間違いない事実でして。先送りを続けているうちに、とうとうこんなに時間が経ってしまった、というのが正直なところですね。まあでも、「満を持して」感が代わりにある、充実した舞台ではありました。

 

キャスト

オーロラ姫:東野泰子  フロリムンド王子:熊川哲也  

リラの精:浅川紫織  カラボス:スチュアート・キャシディ 

フロリナ王女:樋口ゆり  青い鳥:浅田良和 

 

 Kの舞台は映像は何本か観ているので、期待はしていましたが、やはり装置と衣装が美しいですね!秀逸だったのは、全体がトパーズ色に輝いていた第3幕のセットですが、色の使い方といいデザインといい、今まで見てきたバレエ公演の中でも最高レベルのものがありました。多少パステルがかってはいるんだけど、甘すぎないトーンで、きちんとゴージャスで、玩具っぽさが無いという…なかなか無いクオリティの衣装&装置です。Kの経理担当さんは遣り繰りで発狂寸前になった、という噂が生々しく思い出されるなー(苦笑)

 演出は、全体的にストーリーとしての整合性を重視する、Kらしい「眠り」でした。序曲のところで既に幕が上がっていて、招待状が来ないことに腹を立てるカラボスや、オーロラ誕生に沸く城内の様子を見せるあたり、丁寧な演出です。

それとこの版、何気にキーパーソンなのが、カラタビュュット。映画「アマデウス」の世界から抜け出してきたような、わざとらしくバロック調でコメディが入ったキャラクターですが、そもそも彼がちゃんと招待状を出してさえいれば、この話は最初から無かった。コミカルで大袈裟な演技で、決して有能な典礼長ではないことをアピールし、なおかつオーロラ16歳の日には、老婆に変装したカラボスが錘を持っていることに気づきながら、つい見逃して城内に入れてしまう大失態も犯しています。この間抜けさと憎めなさは、「ドン・キ」のガマーシュに通じるものがある気が。

ダンサーの中で目を引いたのは、何と言ってもオーロラを演じた東野さん!私はこの役は、ニーナ、ザハロワ、森下洋子さん、吉田都さんという、恐るべきラインナップで観てきているので、目は相当奢っています。確かに、圧倒的な華のあるオーロラではありませんでした。でも、何よりも可憐で、童話の王女様に相応しいキラキラしたオーラが出ていて、とても可愛らしいオーロラでした。

対する熊川さんの王子は…とても彼らしい王子ですね。良く言えば風格があってドンと落ち着いている、悪く言えば王子以上に偉そう。でも、やはりテクニックは圧巻!素晴らしいエネルギーが、定められた1点に向かって集束していくような、回転であり跳躍。しかも、完璧に制御された状態で。世界中を見渡しても、あれほどの技が披露出来るダンサーは決して多くないと思うのですが、それ以上に、あれだけやって空気を乱さないダンサーも少ないと思う。踊りまくっても王子、という意味でも、とても彼らしい王子だったと思います。

リラの浅川さんは、ある程度予想の範囲内の、落ち着いて気品のあるリラ。この版は彼女の存在感も大きいですね。どうかすると、王子のおまけのようになってしまう役だったり、踊らないくせに無駄に偉そうに見えたりする役なんですけれども。

そして、Kといえばこの人、名優キャシディのカラボスは、実にお見事でした。この役と言えば、映像化されているロイヤルの、ダウエルの演技が印象深いですが、彼はあの時のダウエル以上に「レディ」だったと思う。美しく、ヒステリックでサドっ気のある紛れも無い「女性」。このカラボスは、玉虫色の派手な衣装を着ていたんですが、これが全然安っぽさの無い、とても綺麗な衣装だったんです。それがよく似合う、強烈だけど美貌でもあるカラボスでした。

もう1人、印象深かったのは、青い鳥を踊った浅田さん。客席の人気も上々でしたが、確かに若くていいダンサーだと思う。多少粗いかな、というディテールはあったんだけど、何よりも軽やかだし、高いし軽いし、青い鳥としては素晴らしい素材だし、先行きがとても楽しみな若手です。

全体を通して言うと、公演本数が多いだけあって、コール・ドは日本のバレエ団離れした充実ぶりでした。よく揃っていて、とても綺麗。背景になっている時も、「突っ立っている」感ゼロですし。あと、これは踊りそのものもなんですが、コール・ドの隊列の組み方が、明らかに私が観慣れたロシア風ではなくて、アシュトンの影響下にある英国風だったのが、多少の違和感を感じさせつつも、面白かったです。

欲を言えば、前半の辺りで微妙に「部分部分はよく出来ているんだけど、それらが上手く連動してひとつのシーンを織り上げている感が乏しい」ような気はしました。例えば、ソリストとコール・ドの間に微妙な隔絶があったり、1人1人はよく踊っていて動きも合っているんだけど、カタマリに見えないトロワがあったり。上手く言えませんが、一流のバレエ団が踊る時って、舞台の上のすべてが、実に自然に連動していくんですよ。その領域にはまだちょっとある、と感じた。とはいえ3幕では、全体が実に見事な調和を見せてくれましたけど。

「眠り」は最も幸福な御伽話バレエであり、それだけに、演じる側には成熟が要求される、というのが私の持論なのですが、その高いハードルを、よくこなしていた上演だったと思います。

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