Uターン就職の予定をしていたので、交通費がかかるだろうと、地道に交通費を貯めていました。果たして就職活動が終わった時、通帳に残った数字は、ゼロひとつ減ってましたが、最初の数字は大きくなってて。で、私の中の悪魔が囁きました。「これは、華々しく使い果たしてやらなきゃダメだよ」……そこに、渡りに舟の世界バレエフェスティバル。愛するウヴァーロフが来る!ずっと観たかった、ルグリやフェリ、ギエムまで!しかも、年度一杯で学生券が使えなくなる。じゃ使えるうちに使っちゃおう。そんなわけで、繋がらない電話をめげずに一時間半かけ続けたり、朝早くからチケットぴあに並んだりして、どうにかこうにか手に入れました、四枚のチケット(うち学生券三枚)。万歳。というわけで、03年八月、私は頻繁に上野に出没することになったのです。

 Aプロの日は、正直言うと、不愉快なことも色々あったんです。隣席のおじさんが、明らかに「仕事の関係で、仕方ないから観に来た。いつものことだからバレエは分るけど、本当は好きじゃない」って風情で、休憩のたびに「やっと半分終わった」ってぼやいてたり。それ以前にこの日の席、東京文化会館で一番悪い席だったんですよね。流石は最上席の四分の一以下の値段というべきか。最上階後列の、左の端だったんです。お蔭様で、舞台の下手端が観えませんでした(;_;)でもいいんです!結果オーライだから。では、それぞれの演目についてコメントなど。


◆フィリップ・バランキエヴィッチ「リーズの結婚」

…って、もう終わりですか?!正直な感想がこれ。柔らかくて楽しそうな、素敵なダンスだったんですけど、短すぎる!ガラコンサート初体験だったので、ほかにも分らないことが細々あったんですけど、これが一番びっくりした…


◆マリア・アレクサンドローワ&セルゲイ・フィーリン「ロミオとジュリエット」よりバルコニーのパ・ド・ドゥ(ラヴロフスキー版)

この場面は、何気に色んな演出を観ています。これで三つ目。これが一番地味ですね…ジュリエットが下に降りるのが矢鱈速くて驚きました。本来はスヴェトラーナ・ルンキナがジュリエットの予定だったんですよね。彼女もぜひ一度観てみたいバレリーナですが、今回は妊娠のため代役が立ちました。本音を言って、とても残念。アレクサンドローワは、ジュリエットを演じるには柔らかさも愛らしさも足りない印象でした。というか、私、今一生懸命思い出すんですが、フィーリンしか出て来ないんです。細かくて綺麗な脚さばきとか、情感のこもる丁寧な指使いとか、恋人に会えたのが嬉しくて仕方ない、と走り回る様子とか…ああ、やっぱり上手いなこの人、と思ったんですけど…アレクサンドローワのこと、何も覚えてない……


◆アニェス・ルテステュ&ジョゼ・マルティネズ「エスメラルダ」

第一部の真打登場!今回唯一の、夫婦カップルでもあります。舞台の空気が凛と引き締まって、観るべきものが来た、と感じました。振る舞いに余裕があって、二人の呼吸が奇跡のようにぴったり同じタイミングで合う。二人居て一色。緩やかに回るピルエットに全然ブレが無くて、完璧に美しかったのが印象的でした。バランスも、例えばニーナさんがやるような圧倒的なものではないんですが、ごく自然に、あっさりと、それでいて綺麗。ところが、それぞれのソロになると、持ち味が違うからびっくり。マルティネズは、どれだけ正確無比な回転を繰り返しても、不思議と印象が柔らかい。一方ルテステュは、スラヴ風の音楽にタンバリンを使って、きびきびと格好良く。そして、それを観た後のコーダは、また格別の味がありました。


◆グレタ・ホジキンソン&ロベルト・ボッレ「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」

恐々ながら非常に楽しみにしていたのが、これ。フォーサイスは観たことが無かったものですから。最初に思ったことは、予想していたほどコンテンポラリーじゃないということ。一応クラシックベースの動きなんだな、でも、人体がこれほど自由自在に動くものか、ここまで容赦無く、一瞬で筋肉が伸びて、開くのか…と感心。でも不思議な動きでした。印象は非常に無機質。感情はないけど、硬いわけではない。サイボーグ的でもあるし、野獣のようにも見えました。男女の役割は特に無く、組んで踊っていても絡まないし、手を繋いでいても完全に分離されたように、最初は見えたのですが、時間が経つにつれて、この二人はこれで完全体なのではないかと思えてきました。元々が歪な形の、半身と半身。それが結合して踊っているんだ、というのが、最終的な結論です。フォーサイスと聞いて予想していた、最先端のコンテンポラリーとはちょっと違った印象でしたが、興味深い異文化体験でした。


◆アリシア・アマトリアン&フリーデマン・フォーゲル「ジゼル」

シュツットガルドのダンサーを観るのも初めてだったりして…二人とも若いんですよね。少女漫画のように、甘くて可愛らしいジゼルでした。私が理想とするグラチョーワ&ウヴァーロフのものとはかなり違いますが、これはこれで微笑ましかったです。特にジゼル、村娘のままのところと、妖精らしい軽さが微妙に混在してて。しかし、いつ誰のものを観ても、ジゼルが脚を180°に開くリフト(シソンヌのリフトというらしい)は綺麗ですね。白く透き通るロマンティック・チュチュの向こうに見える脚のラインが、夢のようです。


◆シルヴィア・アッツォーニ&アレクサンドル・リアブコ「ゲッティング・クローサー」

コンテンポラリーといえば、これこそコンテンポラリーな動き(私のイメージの話では)。これは正直言ってよく分らなかったんですが、観ていて思い浮かんだことは幾つかあります。男性は、何かを探しているか、どこかへ行きたいか、それで動いているんだけれど、ある場所より先へは行けない。でも、そのことに対してある程度楽観的なんですよ。多少、感情の揺れもあって。でも女性はそうでもない。「それは無理」とでも言うかのような、迷いの無い動き。そんな二人が、曲折を経て一緒に「どこか」へ行こうとするまで…かな。コンテンポラリーに、どこまでストーリーを求めるべきか分らないんですが、とりあえず私、そういう観方しか出来ないもので…


◆アリーナ・コジョカル&アンヘル・コレーラ「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」

コジョカルも、とても観たかった一人です。そしてこの演目は、今回ウヴァーロフ以外では一番楽しかった!若さゆえの硬さを残した、明るくお転婆娘風のコジョカル。これまた明るく健全で、もうコジョカルのことが好きで好きで仕方ない、という風情のコレーラ。この二人が何を踊るかしっかり見ていなかったので、てっきり何か、ハッピーな感じのストーリー物かと思って観ていました。二人とも溌剌としていて、動きのひとつひとつからパワーが溢れるような感じです。


そして、私、コレーラってもうすこし若い頃の映像を観ていて、ちょっと頼りないなぁ、というイメージを持っていたんですけど、素晴らしく上達していましたね。お互い小柄でやり易いというのもあるでしょうが、リフトが随分しっかりしてきましたし、技もひとつひとつ確実で。ピルエットのみ、気合を入れて回しすぎてましたけど(苦笑)。彼はやっぱり、回るなら自分で回らなきゃ(笑)。そうそう、あの気合の入った独楽のような回転は健在でした。でも、その回りっぷり、終わり方なんかにも余裕が出てきましたね。それと、柔らかく優雅に、という男性ダンサーが多く出演している中、彼はひたすら男性的にエネルギッシュに、で通していて、良いアクセントになっていたと思います。何だかコレーラのことばかり書いていますが、彼、この演目の間中ずっと、可能な限りコジョカルに目線を向けていて、フィーリンのロミオよりもずっと、パートナーに恋してる感じでした。コジョカルともども、本当に可愛かった!


<後日追記>
なんかこれ、バランシンのバレエからは遠いみたいですね。でも今も思い出すと幸せな気分になります。だからいいや。


◆オーレリー・デュポン&マニュエル・ルグリ「シルヴィア」(ノイマイヤー版)

この二人もとても観たかった二人です。でも、シルヴィアといえば最も古いロマンティック・バレエと聞いていたので、衣装を見てびっくり。ルグリさーん、ナンデスカその、量販店で五百円くらいで売ってそうな、真緑のシャツは…オフホワイトのスーツの下に着てたんですよ、念のため。デュポンは、怪我のため来日公演を二回キャンセルした後だったので、来られて嬉しかったでしょうね。柔らかな茶色のツーピース、フレアプリーツのスカートが私服っぽくて、思わず細いパンプスでも履いて欲しくなりました。オードリー・ヘップバーン似の美女ですものね…って、何か逸脱している。この演目、まるで映画のワンシーンのようでした。踊っているというよりも、全身を使って会話をしているみたいで、コミカルな部分も楽しかったし、仕上がりの良い恋愛映画を一本観た気分。デュポンの持つ閉ざされたイメージ、硬質な感じが、なかなか素直になれない様子に変っていたり、駆け引きに利用されたり、良い味を出していました。


そしてルグリ。憎い人ですね〜。ただ歩いているだけで、何故あれだけ動きに意味を持たせることが出来るんでしょう。背中が語る。でも、決して余計には語らない。彼の動きは、すべてが「この役は多分、こうあるべきなんだろうな」と思えるラインでぴったり決まっています。ちょっとでも逸脱すれば、計算が勝って厭味になるんでしょうけど、そこを決して外さないのが、やはり彼の素晴らしいところですね。それと、些細なことですが、カーテンコールでデュポンの腰に添えた手が、すごく優しかった!デュポンも、怪我のことやキャンセルした日本公演(ルグリと輝ける仲間たち)のことでは彼に優しくして貰った、と言ってましたが、本当に良い人ですね。些細な動作に人柄が滲みます。


◆アレッサンドラ・フェリ「パヴァーヌ」

この演目は、音楽だけでなく振付けも本当にシンプルで、技らしい技は何も無いんですが、それだけに、本当に上手いバレリーナが踊らなければ観られないものでしょう。白いスリップドレス風の衣装に大きなシフォンの布を持ったフェリは、とても四十路を控えた二児の母には見えず、ひたすら可憐。曲はラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」ですが、私、この曲を聴く時いつも、指揮者の西本智美さんの言葉を思い出すんですよ。これは決して王女を悼む曲ではない、と。昔、王女が居た。そんなことを、幸せに思い出すような曲。そうかもしれません。この旋律はとても優しいから。場所は、月光の差す庭でしょうか。フェリの姿は、「昔、ここに王女が居たんですって」と呟きながら、幸せな王女になったふりをする、夢見がちな少女のようにも観えました。あるいは、かつてここで暮らしていた、明るく愛らしかった王女の、幸せな幻にも。やがてその二つは重なり合い、ともに踊り出し、そして最後に、ひとつになれない哀しみが滲む――シンプルなだけに、夢のように美しい演目でした。


◆ディアナ・ヴィシニョーワ&ウラジミール・マラーホフ「マノン」より寝室のパ・ド・ドゥ

マラーホフは「海賊」のランケンデムと「レマンゾ」しか観たことが無くて、貴公子役はこれが初めて。それも微妙に間違ってる気がしますが、まあいいや。ヴィシニョーワは、これも是非観たかったバレリーナ。マリインスキーのお姫様だけあって、体のラインが完璧ですね。そして、出の一瞬でマノンと分らせる演技力。コケティッシュで愛らしく、無意識のうちに男を誘う小悪魔。快楽の方向へ柔らかく靡く、無邪気な魔性の女。そんなところでしょう。一方マラーホフ。彼にはもうちょっと中性的なイメージを抱いていたんですが、思ったよりは男性的な奥行きもありますね。それでもやはり、ラインなんかは並の女性ではおっつかないくらい柔らかいし、体も軽くて、体重なんか無いみたい。そして何よりも見事なのは、一瞬で指先まで染め抜く、その激情。本人が瞬時にその色になるのはもちろんですが、同時に客席最後列、最隅(つまり私の席)まで余波が押し寄せてきます。圧倒されるほどの、強い愛。鳥肌が立ちました。でもね、これは決して純愛物語ではないんです。マクミランがいう「性と暴力」というテーマは、振付けから充分に伝わってきました。女性の体に向ける欲望が、底流にずっと流れていて、最後の瞬間にワッと噴出す。その恐ろしさも含めて、名演だったと思います。


◆タマラ・ローホ&ホセ・カレーニョ「海賊」

いやー、凄かった!カレーニョにはずっと、ジェントルマン、ABTでは最も優しい人というイメージを抱いていましたが、キューバ出身の彼には、絵的にアリの衣装が似合いますね。ダイナミックな跳躍と回転を、余裕と男の色気で存分に見せてくれました。でも、一番の衝撃は、ローホのグラン・フェッテでしょう。トリプル、なんと七回!客席がどよめき、それが歓喜になって爆発して、この日一番大きな喝采を浴びていました。彼女といい、カレーニョといい、エキサイティングで華やかで、これぞガラコンサートの醍醐味!という感じでしたね。00年の前回公演で、ステパネンコ&ウヴァーロフの「海賊」が超絶技巧回転で好評を博したというので、気合が入っていたのでしょうか。


◆ジル・ロマン「アダージェット」

私、この音楽を聴いていると、どうしようもなく切なくなるんですよね。フィギュア畑の話で、エカテリーナ・ゴルデーワが亡き夫セルゲイ・グリンコフに捧げたプログラムがこれだった。観た筈の「ヴェニスの死す」ではなくて、それがどーんと浮かんできてしまうんです。それはそれとして。夜の中に浮かび上がる、ロマンの半身。何かを追い求めるような仕草からは、半分は幻想で作られたような危うい恋の匂いと、思春期の不安定な性のイメージが想起されます。でも決して暴力的でもなく、絶望的でもない。彼は、抱いた思いに振り回されながらも、その思いと、自分自身を慈しむことを知っているから。エロスというには幼く、少年にしては妖しい、不思議な時間が流れていました。ラスト近くの超高速回転が圧巻でした。


◆ガリーナ・ステパネンコ&アンドレイ・ウヴァーロフ「バヤデルカ」

まずは一言「貴方に会えて最高に幸せだった!『死んでもいいくらい』という言葉は大嫌いだけど、幸福感で息が止まりそうでした!本当にありがとう、アンドリューシャ!!」…そう、アンドリューシャ。彼には何か、親愛の情と敬意を込めた呼び名が欲しいんですが、これしか無い…あんな大きなものに愛称形もどうかと思うんですが、まあいいか。しかし、本名より長い愛称形ってどうよ…

ええい、本題はそうじゃなくて。出ました今回の私的メインディッシュ!正直なところ、ロマンの前の休憩時間から気もそぞろで、めちゃくちゃ緊張してました。それでなくても、「バヤデルカ」は是非、全幕でも観たい演目なんです。でも、不思議なことに、今まで部分も観たことが無くて。それを、最愛のダンサーが目の前で踊ってくれるんですから、何という幸せ!

本当は不安でした。直前にロマン、直後にギエム&ル・リッシュ。飲まれたらどうしよう、と。失礼しました。貴方は伊達や酔狂で十年、ボリショイのトップに居るわけじゃありませんね。というより、去年観た時よりずっと上手くなっているような気がします。相変わらずあの長い脚に苦労しているかと思いきや、プロムナードもピルエットもずっと自然になっていて、サポートのいたれりつくせり具合に磨きがかかっていました。今日一番の高い跳躍と、頂点での長い制止。丁寧に、気持ち良く伸びる筋肉。脚も腕も、優雅に余すところ無く広げられて、涙が出るほど美しかった。まるで大きな鳥が翼を広げて舞っているようです。そして、体の動きはマラーホフにも劣らないくらい柔らかくて、軽やかに舞っているのに、女々しさや弱さがなくて、安心感が出る程度に力強い。ここ、とても大事です。もちろん、女性を包み込む眼差しの暖かさと、リフトの上げ下ろしのソフトさも健在。このソロル、本当にニキヤを愛してますね。ウヴァーロフは相変わらずウヴァーロフで、期待以上の仕上がりでした。

一番嬉しかったのは、なかなか見せてくれない、ダブルの足技を山ほど使ってくれたこと。貴公子という役柄上、必要以上に目立つことを好まない彼ですが、今回は役柄も役柄、ガラということもあり、やりたい放題。同じダブルのカブリオールでも、最初にフィーリンがやっていた、きびきびと細かい脚さばきではなく、もっと大きく開いて余裕を持って閉じる。これもまた、大鳥の羽ばたきのようでした。翻る脚の美しさ、回転の描くラインまで優雅なのは流石ですね。ほどよく力強いけど、どんな大技をやっても荒々しくは無い。彼は、この公演で一番のダンサーでは決して無いけど、トップクラスの皆様と同等にやれるんだと分って嬉しかったです。

そうそう、ステパネンコのことも書かなくては。強いバレリーナですね。物凄い技術力を見せてくれましたが、揺るぎもしない。ステップといい、高速回転の数々といい、アラベスクのポーズのまま、ちょんちょんと後ろへ跳び退る様子まで、見事に狂いがなくて素晴らしかった!最初は硬質の雰囲気を持つ、死せる乙女の幻でしたが、ウヴァーロフの優しさで徐々に溶かされてゆき、現れたのは、誇り高きバヤデール。踊りに一切の妥協はしない、プロの踊り子。踊ることに命を賭けて、歓びを以って身を捧げ尽くす。それほどの踊りぶりでした。

ところでアンドリューシャ、ひとつ訊いてもいいですか?貴方は今日も、いつものように、結婚指輪は外さないで舞台に上がりました?いや、貴方が奥さんをすごーく愛してることは知ってますし、キャラ的にもOKで非常に美味しいんですけど、舞台の設定上、まずくないですか?


◆シルヴィ・ギエム&ニコラ・ル・リッシュ「優しい嘘」

そしてギエムは強かったです。それに無理なくついてゆけるル・リッシュも強かった。元々ル・リッシュは最初に「ノートル=ダム・ド・パリ」を観た時、クラシックに収まる人じゃないなと直感的に思ったんですけど、その通り。彼くらい動く体を持っていたら、もっともっと斬新なことが出来る筈だから。ところで私、以前NHKでNDTの公演を観て、これは最高にわからない振付けだと思ったんです。というわけで、これを観るの、とても怖かったんですけど…まあ別の意味で怖かったかな。グレゴリオ聖歌に乗って動いた体は、「イン・ザ・ミドル〜」の比じゃないくらい自由自在で、瞬間的に限界まで伸びて、開き、また瞬間的に変わってゆく。でも、どのポーズにも力が満ちて揺るぎない。それがギエムの美しさであり、表現方法でもあるんだなと思いました。タイトルは「優しい嘘」だけど、この舞台の上に嘘があるとしたら、それは音楽でしょう。ギエムとル・リッシュの肉体と、それが呈したものには一点の偽りも無く、真実だけを貫き通す、限りなく美しい強さがあった。そう思います。


◆バルボラ・コホウトコヴァ&イニャキ・ウルレザーガ「ドン・キホーテ」

この二人は、申し訳ないけど、前三組ほど凄くは無かった…そこそこ良かったんでしょうけど、好みの問題として、お馴染みの決めポーズはもうちょっとビシッと決めて欲しいなとか、コホウトコヴァにきびきびした感じが足りなくて柔らかすぎるなとか、細かいケチが色々つきまして…コホウトコヴァとウヴァーロフが、生で観るの二回目なんですけど、彼女はもっと、お姫様とか、柔らかさの似合う役で見たかったなぁ…でもこれもきっと、四部以外の場所にあったら楽しかったと思います。あ、ダメだ、海賊より前じゃないと。これにもグラン・フェッテがあるので、どうしてもあれより凄くは出来ないでしょう。


◆フィナーレ

みんな一列に並んでご挨拶…なんですけど、ウヴァーロフ、いつも一番後ろに居るんですよね。一人早めに歩みを止めて、「私は背景です」って顔をして、右手を上げてポーズ。で、下がってくるパートナーをエスコートして、近くのほかのダンサーにも気を使って…貴方絶対そういう人だろうと思ってましたよ。あと個人的に非常にウケたのは、一旦幕が下りた後、ダンサーたちが一組ずつ幕の外に出てきて挨拶をしていきまして、最後に指揮者の方も出てらしたんですよね。最初のミシェル・ケヴァル氏は、「何?指揮者も出るの?」という感じで拍子抜けて笑いが出た客席に向けて「私が出ては悪いかね?」とでも言うように、ポーズを決めてみせる。二人目のアレクサンドル・ソトニコフ氏(この人の指揮でバレエを観るの、何気に三回目です)は、最初から格好つけてポーズを決めて…ええ、でもお察しの通り、殆どウヴァーロフしか見ていませんでした。御免なさい。

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