色んな意味で、決して悪くはないけれど、微妙ではあるガラだったかなぁ…というのが、一番大きな感想かもしれないですね。プログラムも微妙と言えば微妙だし、キャスティング的にどうなのさ、という問題もあって。ひとつとして、決して悪いもん観たってわけじゃないんですけどね。これだからガラって難しいと思う。

 

     カルメン

カルメン:スヴェトラーナ・ザハロワ  ドン・ホセ:アンドレイ・ウヴァーロフ

闘牛士:アルチョム・シュピレフスキー  コレヒドール:ヤン・ヴァーニャ

運命:オクサナ・グリャーエワ  たばこ売り:タチアナ・リョーゾワ、オリガ・キフャーク

 とりあえずまず、ザハロワ様の脚を堪能しました。プティ版をヴィヴィアナで観た時も思ったけど、カルメンの脚は、自我の強さを表す脚だなーと。くっきり伸びて欲望を描き、実に気持ちよく振り翳される脚です。その脚だけで、カルメンです。

 多分、役柄的には、今まで観てきた中で一番ザハロワに合ってると思います。高いプライドと譲れない自我と許さざるを得ない我儘と、強靭さと。とても気持ち良い悪女ぶりでした。マル。それ以上言うことはあんまり無いかも。

 アンドレイのホセは…明らかにいい男すぎ。セクシーで格好良いですよ、とっても。ある意味ファンとしてはそこは嬉しい。だけど、格好良ければ格好良いだけ、ホセとしてはダメなんですよね。奴は伍長ですから。上司のコレヒドール(オペラで言うツニガ)は士官ですから。並んで踊った時に、明らかにビシッとしてて風格があったりしちゃいかんのです。あと、カルメンに恋した後、「夜想曲」に合わせるモノローグは、とっても雄弁だったけど、王子化していました。ラストのパ・ド・ドゥはとっても濃くて美味しかったです。とりあえずファンとして、新しいものが観られたのは嬉しかったです。

 闘牛士のシュピレフスキーは…各所でボロクソに言われている意味がよーく分りました。大柄だから、なのか、大柄なのに、なのかはよく分りませんが、動きに余裕が無い。それから、ビシッと動きを止めるのが苦手みたいですね。その二つが合わさって、何とも言えず気持ち悪い踊りになってました。闘牛士(オペラで言うエスカミーリョ)は恥ずかしいくらい派手でマッチョな役で、この闘牛士も振付はそうなっているんだから、後は過剰なフェロモンを振りまきながらド派手にビシバシと踊ればいい筈なんですよ。

 というわけで、ホセと闘牛士のコントラストがいかにも弱くなった結果、舞台全体から緊張感が失われて、締まらない三角関係に陥った感があります。プティ版も然りですが、このアロンソ版も、ストーリーをコンパクトに纏めて、カルメンとホセの恋愛だけに絞っている。だからこそ、息が詰まるような、皮膚が切れて血が滴るような緊張感だけが命だったと思うんですけどねぇ…

 ただこれは振付にも問題があって、例えばコレヒドールが何故かいつまでもそこに居る理由もよくわからないし、四角関係だとすればそれこそキャラ立ちが弱いし、この版にはホセが零落していく描写が無いし、闘牛士への心変わりも曖昧な描写になっているので、元々こういうことになりやすい版でもあるな、と思いました。その代り本当に4人で強烈なコントラストを描いて、観ている方まで肩が凝るような上演が出来たら素晴らしいと思う。 

 でもまあ、個人的には「カルメン」はオペラをお勧めします。オペラの華やかなエンタテイメントを知っている人間からすると、プティもアロンソもコンパクトに作りすぎている気がする。

 

     パリの炎

ニーナ・カプツォーワ&イワン・ワシーリエフ

 誰かワシーリエフに、バレエは独りで踊るもんでもなければ、技で踊るもんでもない、と教えてやって欲しい。ガラなので、2人して暴れまくる、という選択肢は認めます。ただ今回、カプツォーワはとっても丁寧に折り目正しく、美しいバレエを踊っていた。その横で暴れまくるワシーリエフは、正直どうなんだろうと思います。最初の、重なるようなジャンプが明らかにカプツォーワより高かった時点で嫌な予感はしましたが、結局最後まで、相手との釣り合いも考えずに好き勝手に暴れていた。パ・ド・ドゥを踊りたかったのに相手が居なかったカプツォーワと、勝手にソロを踊っていたワシーリエフっていう感じかなぁ…あとワシーリエフは、派手に色んなことをやるけれど、往々にして着地が怪しいしラインがちっとも綺麗ではないし、間に合ううちにきちんと教育した方がいい。少なくとも「スパルタクス」を踊る器ではないと思います。カプツォーワがとっても端整で繊細な踊りだっただけに、あまりにも勿体無かったなぁ…

 

     トリスタン

スヴェトラーナ・ザハロワ&アンドレイ・メルクーリエフ

 ザハロワの美貌を堪能するための作品。これは、トリスタンとイゾルデの密会シーンなんでしょうかね。元の作品がよく分らないので何とも言えない&いまひとつ入り込みきれないのですが、だとしたら雰囲気はとてもよく出ていたし、何よりもとにかくザハロワが美しかった。全身のラインが歌うように伸びるなぁと。そして、アンドレイとは別の意味で、メルクーリエフとも相性が良さそうだ(こっちもアンドレイだけど) メルクーリエフのコンテンポラリーが凄くいいのは知っていたので、今更驚きはしないけど、やっぱり良かったです、ええ。とても安心して観られるペアです。

 

     エスメラルダ

オリガ・キフャーク&ヤン・ヴァーニャ

 ボリショイ勢に比べると地味さが否めないカップルでしたが、好感度は高かったです。きちんと踊っていて綺麗だったし、原作の雰囲気もよく出ていた。何が凄いっていうことはないんだけど、彼らが何気に一番普通の「クラシックバレエ」を丁寧に踊っていたと思います。

 

     ブラック

スヴェトラーナ・ザハロワ&アンドレイ・メルクーリエフ

 作品として、今回1番面白かったのは、これ。動きは動物的でもあり、とてもアスレティックで、格闘技っぽい感じもして。で、ザハロワの身体能力を全開にするとこうなります、というのが余すところ無く披露される感じ。ギエムのような怖さ、意味は無いけど「すいませんごめんなさい」と陳謝したくなるような威圧感は無いし、普通に爽快というか。で、それに涼しい顔してついていくメルクーリエフが、何気に凄いんだと思います。

 

     ジゼル

ネリ・コバヒゼ&アルチョム・シュピレフスキー

 あのね、この2人は、雰囲気といい絵柄といい、とってもいいものを持っているお似合いのカップルです。それは「マグリットマニア」でとっても良い形で知ることが出来ました。でも…作品さえ合えばの話だ。ここでのシュピレフスキーは時間を追って、コバヒゼ嬢と反比例するように悪くなっていった。とりあえず生き死にの前に立ち居振る舞いに余裕が無さ過ぎだから!とか、何だそのわざとらしい倒れ方は、余計だ!とか、言いたいことはいっぱいありますが…何より勿体無いのは、今回ザハロワを差し置いて最高の美人オーラを纏っていたコバヒゼ嬢の踊りを邪魔してしまったことでしょう。コバヒゼ嬢、本っ当に美しかった!空気のように軽やかで、透き通るように繊細で、触れたら雪のように散ってしまいそうで、儚げを通り越して、儚い、と言い切りたいほどのかぼそさ、影の淡さ。これこそジゼル、と言い切れてしまう素晴らしい踊りだっただけに、いいパートナーをつけてあげたかったなぁ…

 

     クレイジー

イワン・ワシーリエフ

 だから、バレエはアクロバットではないと(以下自粛)

 

     ヴォイス

スヴェトラーナ・ザハロワ

 これははっきり言って、プログラムミスでしょう。彼女にコメディエンヌの素質があるとは思えないし、作品としても、トリを飾るには地味でシンプルに過ぎる。正直「だから?」って言ってしまいたくなるんですよねー。せっかく見栄えのいい男性も揃っていたんだし、こっちのプログラムではザハロワが踊るクラシックが無いので、華やかにローズ・アダージョをやってみるとか、他にも締め方はあったと思うんですけど(苦笑)

 

 フィナーレは出演者全員が舞台に出てきて、ポーズをとって制止(とても見事なスチールっぷり)の上をスポットライトが移動していき、続いて「パガニーニの主題による狂詩曲」に合わせたディヴェルティスメント。ここではカプツォーワはメルクーリエフと組んでいて、ちょっとほっとしました。アンドレイとワシーリエフは交代でマネージュをしていたけど、ワシーリエフは先輩をよく観ておくように。ラインの美しさが雲泥の差だし、このディヴェルティスメントはアンコールで2回繰り返されたけど、正直ワシーリエフのは、最後には食傷しました。ひたすら派手なだけで、何やっても同じなんだもん。

 文句無しに楽しいフィナーレの演出だったけど、これが1番楽しかったかも、と言いたくなる辺りに、このガラの微妙さが出ている気がする…(苦笑)

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