誇大広告でも何でもなく、これは世界で一番楽しいプロダクションのひとつだと思う。コール・ドから子役まで含めて、元気が良過ぎて、五月蝿いったらありゃしない(笑) でもそれは、全員が舞台を生きている証拠で、とても素晴らしいことです。

 

キャスト

キトリ:ポリーナ・セミオノワ  バジル:アンドレイ・ウヴァーロフ  

メルセデス:井脇幸江  エスパーダ:後藤晴雄  ドン・キホーテ:野辺誠治

サンチョ・パンサ:氷室友  ガマーシュ:松下裕次  ロレンツォ:平野玲

若いジプシーの娘:奈良春夏  キューピッド:佐伯知香  ドリアードの女王:西村真由美

キトリの友人:高村順子、乾友子

 

 流石は東バの看板演目というか、全員、踊り慣れて板についてますね。時代とともにキャストも変わっていくけれど、それぞれの持ち味で、それなりにこなしていけるし。特に今回、ガマーシュ&ロレンツォのコンビ(この演目では何故かそうですよね)の充実ぶりは、嬉しい驚きでした。ガマーシュは特に、初代の吉田さんが素晴らしかっただけに、見劣りしたら…と思っていたんです。吉田さんのガマーシュは、敢えて言うなら「スネ夫の親戚に一人は居そうな奴」だったんですけど、今回、松下さんが演じたガマーシュは、何を言ってもヌケた笑顔で「はい〜」としか答えなさそうな御付とワンセットで、「莫迦を踊っている人形」みたいな楽しさがありました。以前よりも真っ白なメイクも、その雰囲気を出すのにはいい感じ。

 ドン・キホーテとサンチョ・パンサの主従コンビは、「まあこんなもん」ではあるんだけど、ドン・キホーテは特にいい味が出ていましたね。本当は妄想に取り付かれた頭の弱い老人の筈なんだけど、この人はそうじゃない感じ。騎士道被れで時々奇行に走るんだけど、基本的に凄くいい人そう。このプロダクションでは、彼はキトリとバジルの隣人という設定になっていますから、そういう雰囲気もいいかも。

 井脇さんのメルセデスは、相変わらずいなせで婀娜っぽくて、何も心配しなくても、どこまでも素敵。どこまでもついていきたくなる、同性から見ても魅力的な姐御です。対して後藤さんのエスパーダは、ちょっと軟派でキザっぽくて、一生懸命格好をつけている感じ。井脇さんと組むと、年上の女性を口説くのに精一杯虚勢を張っちゃってます、的な可愛さがありました。もちろん、それなりに格好良くもあるし。ただ、身長の関係もあって、バジルと並んだりするシーンが少なかったので、このプロダクションの特色のひとつである「二組のカップルは友達」っていう設定は、いまひとつ活きなかったかも。

 その他、東バ勢で目を引いたのは、キューピッドの佐伯さん。今まで見てきた中では一番、少年っぽくて軽やかなキューピッドでした。可愛いというよりも、本当に軽くって、でも安定していて、素敵。それとドリアードの西村さんは、何っていう見所があるわけじゃないけど、どこまでも安心して観ていられました。ジプシーの奈良さんは、「恋に破れて心が壊れた娘」というよりも、「という役を踊っている娘」な感じ。というか、ギャラリー(キトリたち四人)もそういうリアクションであの場面を観ていたし。ほどほどに踊れてはいるんだけど、斎藤さんや吉岡さんの、あの鬼気迫る怖さにはまだ遠いかな。

 コール・ドは、子役も含め、一瞬たりとも、誰もじっとしていないで、喋ったり・笑ったり・騒いだり・踊ったり…活き活きしていて素晴らしいと言いたいところなんだけど、一幕のタンバリンとか闘牛士の踊り(基本的に男性陣)が、「一生懸命合わせている」感が出てしまって、それだけは減点項目。これだけエネルギーのある集団なら、微妙にずれたとしても、勢いでどうにかなりそうだし、そういう雰囲気の方が絶対にいいのに。

 キトリのポリーナ嬢は、今まで観てきた中で一番良かったと思います。確かに長身だけど、がっしり体型で脚もザハロワ辺りと比べれば真っ直ぐではない、言ってみれば非人間的な造形をしていないので、危ぶんでいたよりも、背景によく馴染んでいました。

 それと彼女は、とっても可愛い雰囲気の子ですね。前回のバレエフェスでジュリエットを踊った時にもちょっと思いましたが、姫よりも、パーソナリティのある少女役の方がハマるのかも。このキトリは、ザハロワのように洗練の粋を行く感じでもなければ、ステパネンコの鉄火娘とも違う。ニーナの持っている太陽のような暖かさでもない。とってもキュートな、等身大の女の子です。明るくて、楽しいことが好きで、人並みに焼餅を焼いたり我儘を言ったりすることもあるんだけど、それが性格の根本か、と言ったら決してそんなことは無い。一言で「こんな子」と言い切るのは、簡単なようで案外難しい子。でもきっと、探せばその辺りに居るかもしれない、良い子です。

 一方、個人的には約一年ぶりとなるアンドレイは、「最高!」ってほどでもないけど、難癖のつけ所が無い、端整かつ豪快な踊りで、つまりは彼らしい、素晴らしいバジルでした。でも何だかご機嫌だった…ように見えます。舞台はじでの小芝居が止むことも無かったし。ところによって、キトリといちゃいちゃしていたり、お酒を飲んでいたり(今回は深酒じゃなかったけど)、よりによってメルセデス姐の踊りを真似していたり、追いかけるのに疲れるくらい、色々やっていました。それと、狂言自殺のシーンでは、03年のフェスで東バに客演した時と同じく、白いハンカチが登場。あれはあの時彼が思いついたネタだったとのことで、その後やっていなかったので、ふと思い出したんでしょうか。だとしたら細かい人だ。

 心配していたポリーナ嬢との相性はかなり良く、流石の安定感。ポリーナ嬢も伸び伸び踊っていましたし。包容力があるので、アダージョの辺りでは若干、バジルの方が年上に見えますが、明るくて小粋な、スペインのどこの下町に居てもおかしくないカップル、という風に見えました。ラストのグラン・パ・ド・ドゥが終って、いい感じで見詰め合おうとしているところに次々邪魔が入るシーンは、凄く可愛かった。

 それにしても、このプロダクションは、良い意味で短い。展開がスピーディなのはもちろん、飽きたりダレたりするところもないままに、一気に最後まで駆け抜けてしまう。楽しいんだか、時間が速く過ぎてしまって勿体無いんだか。でもそれは、素晴らしいプロダクションに接した証拠でもあるし、踊っている側がそれをちゃんと生きている証拠。冒頭の繰り返しになるけど、肝はそれだと思う。そういう舞台に巡り合えるののは、ファン冥利に尽きることです。

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