やっぱり私はロシア・クラシックが、そしてボリショイが大好きだ!との思いを新たに出来た、とても幸福な公演でした。ボリショイは若手〜中堅、マリインカは中堅〜中核という面子だったにも関わらず、満足度は何故かボリショイの方が高く、公演全体を通しての満足度がルグリ・ガラを軽く上回りましたからね〜。


◆「エスメラルダ」エカテリーナ・クリサノワ&ドミトリー・グダーノフ

ガラの先陣を切るのって難しい。大体誰が何を踊っても、印象が小さいまま終ってしまうから。が、それにしても、グダーノフの踊りは小さすぎたと思う。コンディションが悪そうとか、元気が無いとかミスがあるとかいうわけじゃない(と思う)んだけど、印象が残らないんだよな〜…何故だ。

 クリサノワは、グダーノフとの相性はどうなんでしょうね。ボリショイでも何度も全幕を一緒に踊っている筈なのに、息が合っていそうに見えなかった。バランスが非常に危なっかしく、無事に済んでああ良かった、という以外は、若い彼女の溌剌とした雰囲気によく似合う演目で、良かったと思います。


     「マグリットマニア」ネリ・コバヒゼ&アルチョム・シュピレフスキー

最高の収穫はこれ!断言していいです。まさかボリショイで、こんなに素晴らしいコンテンポラリーを見せて貰えるとは思わなかったし、コバヒゼがこれほど美しく成長しているとも思っていなかった。

曲は、私の大好きなベートーヴェンの交響曲第七番第二楽章のアレンジ。コンテンポラリーですが、クラシックベースの動きを流れるように繋いでいく構成。朱色のシンプルなロングドレスに包まれたコバヒゼの肢体がひたすら美しくて、見入ってしまいました。各所で頼りないのヘタレだのと言われているシュピレフスキーも、コバヒゼとの相性も演目との相性も良さそうで、とてもいい仕上がり。

舞台の上に満ちた空気が、静かな中にもドラマチックで、時に背筋がゾクッとするように艶めかしくて、このままあと一時間、見ていてもいいような気さえしていました。とにかくコバヒゼは「バヤデルカ」の時に目をつけていたダンサーなので、成長ぶりが嬉しいですね。既に主演している「ジゼル」も素敵でしょうし、順調に育てば「スパルタクス」のフリーギアを踊れるダンサーになると思う。頑張って〜。

 


     「海賊」ニーナ・カプツォーワ&アンドレイ・メルクーリエフ

これは、先頃ラトマンスキーが復刻したヴァージョンですね。ランケンデムとギュリナーラによる、通称「買うてくんなはれのパ・ド・ドゥ(爆)」。衣装がレトロかつ豪華で素敵でした。

カプツォーワは、とても可愛らしくてコケティッシュなんだけど、それとなく品の良さもあって、とても素敵なダンサー。オーロラやリーズ、マーシャなどがよく似合いそうですね。クラシックの動きも、クリサノワとは比べ物にならない安定感で。

一方のメルクーリエフは、身長にもプロポーションにもそれほど恵まれているわけでもなく、身体能力も見た感じは並み、テクニックも超絶というほどでは無い。にも関わらず、ちょっとしたアクセントのつけ方が上手くて愛嬌があり、ランケンデムに限らず、準主役級でかけがえのない存在感を持つタイプに見えました。「スパルタクス」のクラッススなどが似合いそうです。

 


     「ジゼル」スヴェトラーナ・ルンキナ&ルスラン・スクヴォルツォフ

これもまた、大きな収穫であり、叶うなら全幕で見てみたいと思えたものでした。

ルンキナのジゼルは、かつて観てきた中で指折りに「この世ならぬもの」の存在感、冷たさと軽やかさと儚さを併せ持っていて、上品な怪談の趣。何かしら日本の幽霊に通じるものがあったと思います。丸山応挙の幽霊絵とか、「牡丹灯篭」のお露さんとか。容姿からして薄幸の美女風な彼女ですが、「美人オーラ」の量も、コバヒゼと並んでぶっちぎりに多かった。

一方のスクヴォルツォフは、ダンスール・ノーブルというにはオーバーめの演技で、「呪われて踊らされている」感が全開。ガラなのに、すっかり怪談になってしまったこの二人のパ・ド・ドゥ、全幕ではどんな解釈を見せてくれるのか、とても気になります。

 


     「ファラオの娘」マリア・アレクサンドロワ&セルゲイ・フィーリン

軽めのダンサーが揃ったボリショイの中では、重鎮級のこの二人。期待通りの存在感、そして踊りで、貫禄を見せてくれました。ある意味、ちょうどいい重石。

アレクサンドロワは、お姫様にしておくにはガタイがよく、踊りも勇ましいのですが、雰囲気とかちょっとした仕草がとっても可愛くて、つい目がいってしまう。そのバランスというかアンバランスさというか、何ともいえない感じが、彼女の魅力ですね。きっとキトリが可愛いだろうし、メフメネ・バヌーも素晴らしいと思う。多少、演目を選ぶかもしれませんが、素敵なダンサーであることは間違い無し。

対するフィーリンは、それほど身長の違わないアレクサンドロワを相手に、安定したサポートが見事。グダーノフはフィーリンをよく観ておくように、ですね。相変わらず、細かい足技がとっても綺麗。そして、ベテランながらに、いつまでも颯爽と若々しいですよね〜。ただ…最後の方、踊りには反映しなくとも、かなりゼイゼイ言っていたので、やはり体力的には辛いものがあるのかしら…あと何年踊ってくれるんだろう、といきなり生々しい心配をしてしまいました。

 


     「パリの炎」ナタリア・オシポワ&イワン・ワシーリエフ

わはははははは。これは面白い。二人ともあからさまに「要精進」なんだけど、素材としては文句ないですよ。あまりにも荒削りだけど。特にワシーリエフ。パ・ド・ドゥで確信犯的に女性を食ってしまう超絶技巧小僧。よくあんなに跳んで回れますね。あ、もしかして出始めの頃、熊川哲也ってあんな感じだったのかなぁ。

とにかく、凄まじいパワーで踊り飛ばす。雑なんだけど、身体能力が莫迦高くて莫迦テクを持っているから、何とでもなってしまう。十代の今なら、辛うじて許せる滅茶苦茶です。早いうちにベテランのバレリーナとも組んで、パートナーと踊ることの意味とかコツとか、役の解釈とか、きちんと勉強して欲しいですね。そうして上手く育てば、「スパルタクス」に主演出来るダンサーに育つでしょう。

対するオシポワは、既に相手に引き立てて貰うことは拒否して、こちらも超絶技巧で勝負。やはり技術はあります。ただ、元々首が太くて短いなど、体型的に難があるので、例えばコバヒゼと比べた時に、同じことを同じようにやったのでは、綺麗に品よくは見えない。にも関わらず、細かいところ、踊りにならないような振る舞いが雑。もっともっと気をつけて、綺麗に磨いてあげないと。

というわけで、基本的には同質である二人が、思い切り莫迦やったパ・ド・ドゥ。こういう素材も居ます、という意味や、コンサートピースとしては面白かった。そして、数年後にはいいダンサーに育っていて欲しいと、心から思います。

 


     「薔薇の精」イリーナ・ゴルプ&イーゴリ・コルプ

爆笑その2はこれ。何のネタを振られたわけでもないんだけど、あっというまに吹いちゃって、笑いを堪えるのに必死。いや、薔薇の精の存在自体がネタなのかなぁ…

普通に踊ってる、と思うんですよコルプは。にも関わらず、極限まで胡散臭い。衣装の微妙なピンクと同程度に妖しいしイカガワシイ。あ、これはけなして言っているのではありません。どっちかというと褒め言葉(爆) 昔、新国立でやった「パキータ」よりは絶対に似合っている…オマエ何者だ(爆・2)

ゴルプですか…えー、そもそもが地味な役割、相手が強烈すぎて殆ど忘れました。ただ、シルエットまでは上品なのに、振る舞いの細かいところが良家の令嬢っぽくなかったかも。

 


     「サタネラ」エフゲーニャ・オブラスツォワ&ウラジミール・シクリャーロフ

可愛いカップルですね〜。持っている雰囲気が気持ちよいほどそっくりで、ユニゾンの動きがまるで双子。明るく健全で微笑ましく、サポートは多少、頼りないところもありましたが、お人形が踊ってるみたいで素敵だった。特にオブラスツォワ。マーシャやオーロラをやったら素敵だろうな〜。

 


     「三つのグノシエンヌ」ウリアナ・ロパートキナ&イワン・コズロフ

ある意味、ロパートキナの踊りが最高でも、驚きはしないんですよ。だって彼女なら最高で当たり前じゃない、とかいう極道な台詞を、つい吐きたいから。で、やはり最高の踊りを見せてくれて、何も裏切らなかったところが、彼女の素晴らしさだと思う。

暗い照明の中に、くっきりと浮かび上がる白い肢体が、空間を支配して押し広げる。その感触を、存分に味わいました。あれだけクラシックを踊れるダンサーが、同等の尊厳を以ってコンテンポラリーに臨めるって、凄いことだし狡いよ(苦笑)

そして、あれだけの存在感を持つロパートキナを支えるのは、実は至難の業ではないか、と推察する次第…そういう意味で、コズロフも秀逸だったと思います。この二人でフォーサイスとかもいいような気がするな。

 


     「ディアナとアクティオン」エカテリーナ・オスモルキナ&ミハイル・ロブヒン

この日、一番可もなく不可も無かった演目。難も無かったんですけど。全体の構成からして正当なスタイルのパ・ド・ドゥが続くので、よほどダンサーに個性がないと、そろそろ飽きてくる頃だという、立ち位置で損をした感もあり。思えば私は、多分、「ディアナとアクティオン」自体があまり好きじゃないんだな。

 


     「グラン・パ・クラシック」ヴィクトリア・テリョーシキナ&アントン・コルサコ

多分、この演目ってこういう踊り方をするもんじゃないような気がするんですけど、それでもテリョーシキナは見事。立っているだけで、既に女王然とした風格。実際には、多少、怪しいところがありましたが、それさえ気にならないほど堂々とした踊りっぷりで、光り輝いていた。

ただ、そのオーラの加減、何かする都度、びしっと決まっちゃう感じが「違うような気がする」原因なんですけどね。これって、もっとすべてをさりげなく見せる演目だったような気がする。もちろん、そんな瑣末なことを度外視してしまえば、テリョーシキナ・オン・ステージとして、素晴らしかった。多少は分が悪いながらも、コルサコフも健闘してましたし。

 


     「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」アリーナ・ソーモワ&アンドリアン・ファジェーエフ

これまた、こういう演目じゃないような気がしますが、二人の持ち味は出ていたからまあいいか。或いは、持ち味が出すぎて、バランシンっぽくならなかったのかな。お姫様と王子様が出てきてバランシンの振付をなぞっているような、妙に華やかな「チャイコフスキー」でした。

ソーモワは品よく愛らしく、ファジェーエフはノーブルに優しく。素晴らしい姫と王子なんですよ。だから、ここで敢えてバランシンじゃなくて、「黒鳥」とか「眠り」「くるみ」あたりの、ベタベタなクラシックで良かったと思う。そういう二人なんだから。

 

     「瀕死の白鳥」ウリアナ・ロパートキナ

本当に短い演目なんだなぁ、ということを、改めて思い知りました(生は初めて)。そして、ロパートキナが踊るクラシックは、既に神々しい。やっぱり、永遠普遍というものを感じてしまいます。題材から時間に至るまで、すべてが儚い演目なんだけれども、ロパートキナが天に掲げた手が、一瞬、永遠に触れるのが見えるんですよ。

 


     「ドン・キホーテ」オレシア・ノヴィコワ&レオニード・サラファーノフ

何とも言えず微笑ましい「ドン・キ」。サラファーノフは、普通あれほどシャープに技を決めていけば格好良く見えそうなものなのに、見事に少年の雰囲気のままで、折り目正しく、ある意味七五三的。素敵だけどバジルではないような、ソロルをやったら張り倒したいような(苦笑) ノヴィコワも含めて、とっても可愛らしいパ・ド・ドゥであり、トリに相応しいだけの存在感もあったんですけどね。

 


フィナーレは、各カップルがもうひとふし踊るというサービスもあり、カーテンコールには両芸術監督も登場と、なかなか豪華でした。そして私は、これだけ並んでもやはり抜群に綺麗なコバヒゼの姿に見蕩れていました。で、彼女がいつまでもシュピレフスキーと手を繋いだままだったので、カーテンコールが上手くいかなかったシーンを目撃(隣に居たカプツォーワの顔を手が直撃)。しかも、それでも離さないから、逆隣のクリサノワ&グダーノフは誰とも手が繋げなくて、列が途切れていたし…何なんだあれは(苦笑)

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