かれこれ10ヶ月ぶりの生バレエ、そして最愛のダンサー・アンドレイの一年半ぶり、怪我から復帰後第一弾の来日。思えばこれほど怖い思いで迎えたバレエ公演は無かったかも。そして、生モノに狎れきっていた二年くらい前では考えられないくらい、喉から心臓が出るんじゃないかという勢いで緊張しながら会場に向いました。

キャスト

キトリ:スヴェトラーナ・ザハロワ  バジル:アンドレイ・ウヴァーロフ

ドン・キホーテ:長瀬信夫  サンチョ・パンサ:奥田慎也  

ガマーシュ:ゲンナディ・イリイン  エスパーダ:市川透  町の踊り子:西川貴子

ジュアニッタ:遠藤睦子  ピッキリア:本島美和  ロレンツォ:田名部正治

メルセデス:湯川麻美子  ギターの踊り:大森結城  森の女王:川村真樹

キューピッド:さいとう美帆  ボレロ:楠元郁子、マイレン・トレウバエフ

 前にも書いた気がしますが、新国立のプロダクションの配色はあまり好きではありません。でも、NHKで放送されて、録画を見直したりもしたので、随分慣らされました。それと、東京バレエ団のワシーリエフ版が物凄く好きなので、どうしてもそれと比べてしまう。新国立のコール・ドは非常によく揃うのですが、迫力とか活気が、どうしても東京バレエ団と比べると見劣りします。あと、闘牛士やファンダンゴの男性陣は、要特訓。

 でも、全体的に前よりもずっといいと思います。演出も色々マイナーチェンジされていましたが、ドン・キホーテとサンチョ・パンサ主従やロレンツォ&ガマーシュの存在感が前よりも大きいし、雑踏のガヤガヤ感も出るようになってきた。一幕ラストのシッチャカメッチャカさ加減は、とても良かったと思います。

 ザハロワのキトリ。なんというか…凄い量のオーラを振りまいてますね。踊りが女王然としてきた。それがこの役にとっていいことなのか悪いことなのか、という問題はあるにせよ、今流れに乗ってて一番いいところに居るのは、よく分りました。もちろん技術的な破綻はある筈も無いし、存在そのものが、太陽のように燦々と輝いていて。一挙手一投足からぱーっと光が散るみたいで。今の彼女なら、何やっても厭味にならないんじゃないかな。

 そして、震えながら待ったアンドレイのバジル…最初の出にはそんなに派手な踊りが無いから、本当に復活しているかは分らなかった。本当に、怖かったですよ。彼ももう三十代後半に差し掛かっていますし、ブランクを経て、復活はしてもジャンプの滞空時間が落ちているんじゃないかとか、元通りに踊れないんじゃないか、とか。

 だから、二回目の登場のヴァリエーションを見た時は、安堵と感動で涙が出そうになりました。体調はとても良さそうでしたね。「いつも通りに完璧」という具合で、「今日は絶好調!」「奇跡的!」みたいな勢いは無かった。でも、同時に衰えた形跡も皆無で、とても引き締まった、タイトな踊りをしていたと思います。タンバリンもよく飛んだし(笑)

 それと、彼のドン・キは三回目になるんですけど、毎回細かい芝居が違ってて、飽きません。例えば今回は、ドン・キホーテやキトリやジュアニッタたちとラインダンスをする時に、チラチラ落ち着き無くキトリの方向を見続けてました。あれがあると、その後ジュアニッタかピッキリアかどっちか忘れましたが、とにかくあの片方といちゃいちゃするのが、ちゃんとあてつけに見えて可愛いです。それと今回、ロレンツォと色々やるシーンで彼が下げていた手拭(?)が落ちてしまって、それは一番近くに居たアンドレイが拾ってました。

 それから、エスパーダの市川さん。お供の闘牛士たちは頼りなかったけど、彼は良かったですね。私、実は市川さんの踊りは今まで、何故か生理的に駄目だったんですが、今回は平気。その他女性陣は、過不足無く勤めていたと思います。

 新国立の女性陣で出色なのは、やはりメルセデスの湯川さん。派手な踊りはなさらないんですが、あだっぽくて貫禄があって、大人!同性として惚れ惚れしてしまいます。

 でも、このシーンは個人的に忙しいんですよ。何故なら舞台の端でアンドレイが色々細かい芝居を繰り返してるから。酒飲んで酔っ払って、なんか途中からメルセデスと一緒になって踊ってましたね。

 それとこの日は、狂言自殺の芝居もまた変わってました。短剣を突き刺したフリをした後、左右を見て呆れ気味に肩をすくめ、ゆったりとマントを敷いて、痛くないように転がる。あと、そういえば彼が、死んだフリしつつキトリといちゃいちゃするのは、初めて観たかも。

 この演出の問題はここからで、ジプシーの野営地は、はっきり言って退屈。ジプシーの踊りはそれなりに観られるようになっていましたが、それでも飽きてきた…はっと気がついたら、コケティッシュなキューピッドが踊っていて、あのピンクのカツラにはどうしても慣れない、という事実を突きつけられました(苦笑) ザハロワのドゥルシネアは高貴なオーラが物凄い勢いで出ていて、素晴らしい存在感でした。森の女王は、相変わらずよく踊れているんだけど、純クラシックでザハロワのすぐ横に居るって、難しい。

 慣れないといえば、ボレロの紫の衣装!あれ、本当に何とかしてくれないかな。到底品のいい色使いには見えないんですけど!

 最終幕の何に驚いたって、ザハロワ&アンドレイが、一幕からあれだけ完璧に出来ていたにも関わらず、舞台の進行に従って調子を上げていったことでしょう。ちょっと凄まじい迫力のパ・ド・ドゥでした。することなすことが怖いくらい綺麗に決まるし、最後の回転勝負はちょっと二人とも壊れてたかもしれませんね。ザハロワはのフェッテはシングル+ダブルの組み合わせで超高速、前回のようにブレるということもなく、一直線上を綺麗に前に進んできた。アンドレイのグランド・ピルエットも、前々回フェスの全幕プロに並びましたね。テンション高すぎ。それから今日は、ヴァリエーションのカブリオレを、別の技に入れ替えて、脚打ちをしてませんでした。こういう目新しい技があると、得した気分になる。

 という具合で、半分以上はアンドレイだけを追いかけて観ていましたが、ほかのところでガッカリすることが無かったのも、本当に幸いだったと思います。見ごたえのある舞台だった。そして、アンドレイが無事、帰ってきてくれて心から嬉しい。これで後顧の憂い無く、グルジア国立バレエの公演を待てます。

 それからもうひとつ――バレエを観始めてかれこれ六年、同じ演目を繰り返し観る機会も多くなってきましたが、やっとその醍醐味が分ってきた。その日その時によって、キャストやヴァージョンによって微妙な違いが出るのはもちろんですが、あの時はああだった、こうだったという思い出に浸るのも楽しいし、前より素敵な踊りに出会えたら最高。生の舞台は宝物だっていうことを、しみじみと感じました。

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