ガラにもやり方が幾つかあって、世界バレエフェスティバルのような博覧会形式から、ルグリのガラのような高度に考え抜かれたプログラムのもの、今回のようなお祭り形式のものも。それについては後述しますが、たかが名古屋でこんな豪華なガラを観られるとは、万博様々です。上手い具合に世界バレエ&モダンダンスコンクールの年にかち合ってくれたお蔭でもありますね。


    田中ルリ&ラスタ・トーマス「海賊」


名前だけはよく聞くお二人ですが、踊り自体は初見。ルリさんは、上品でお淑やかで、メドーラに要求される快活さには欠けるけれど、綺麗なバレリーナ。動きのひとつひとつがきちんとしていて、好感が持てました。そしてグラン・フェッテはいっそ感動的なくらい、正確でした。全部一回転だけど、軸が真っ直ぐでぶれないのはもちろん、ディアゴナルで移動するのがまた、ものの見事に一直線上。お見事です。

 
一方のラスタは、
ABTあたりに居そうな雰囲気のラテン系ダンサー。ジャンプがとても綺麗で、テコンドーの回し蹴りのような迫力のあるジャンプが印象的でした。陽性の雰囲気を持っていて、柔軟でパワフル。彼もまた、好感の持てるダンサーでした。



    ヤオ・ウェイ&サン・シェンイー「ジゼル」


中国のダンサーってのも初見ですね。女性のヤオは、デンマーク・ロイヤルの所属というだけあって、妖精は踊り慣れている様子。「そうそう、ジゼルのラインってそうだよね」「それがジゼルだよね」という、意外性は無いけど納得感のある踊り。ですが、問題はパートナーのサン。それなりに上手いんだけど、何故彼がここに居て、アルブレヒトなのかがよく分らない。多分この人は、「海賊」を踊ろうが「ドン・キ」だろうが、こんな踊りをするんじゃないかな、とつい思えてしまう、キャラクターの曖昧さ。非常に勿体無いのです。



    志賀三佐枝&山本隆之「ライモンダ」


思えば第一部で観たことのあるダンサーって、山本さんとマトヴィだけでした。それに山本さんは、前回が「マノン」の看守だから、踊ってるのを観るのは初めて。志賀さんは、引退されるとのことなので、これが最初で最後ですね。

 志賀さんの踊りは、月並みな言い方をすれば「円熟の境地」ってところでしょうか。非常に地味だけど、柔和で品格があって、良い意味の渋さがある。上半身、特に腕の使い方がとても綺麗でした。きっとこの人は、良い舞台人生を送ってきて、満足のいく形で今、それを締めくくっているんだろうな、と思いました。この人が最後の全幕に「眠り」を選んだのも、今こうして「ライモンダ」を踊っているのにも、凄い納得感があって、いいもの観たなと思います。


 一方の山本さん。「ダンスマガジン」の評で想像していた通りです。颯爽として折り目正しくて、サポートは的確。志賀さんの後ろでシャドーの動きをする振付が多かったですが、見事なユニゾン。でも、隠し味が足りないというか、遊びが無いというか。新国立のビデオで観た「こうもり」は素敵だったので、遊べない人ではないと思うんです。ひょっとして、王子は遊んじゃいけないって思ってるのかな…



    平山素子「Revelation


初見のダンサーが続きますね。日本人が踊るコンテンポラリーってのも、生では初めてだ。白いシンプルなロングドレスの女性と、椅子が一脚。音楽は「シンドラーのリスト」の有名なヴァイオリン曲。自由を奪われた女性のソロということです。感想は、一言で言えば「あっそう」。そう言われればそれっぽい(苦悩するような)動きだなぁと。動きもちょうど、私が「コンテンポラリー」と聞いて想像する程度のもので。ラインだけ味わおうと思えば、それなりに面白かったですけどね。あと最後の最後、真っ直ぐに立った姿のシンプルさが、とても美しかった。



    デニス・マトヴィエンコ&アナスタシア・チェルネンコ「眠れる森の美女」


マトヴィの踊りは三年ぶり。思えば彼は、私が最初に観たバレエダンサーの一人ですから、なかなか感慨深いものがあります。奥様のチェルネンコは、ちょうどモスクワ国際バレエコンクールで賞を取ったばかりで、今が旬のダンサーとも言えます。ただ、二人とも若いし、「眠り」で大丈夫かいな、という不安はありました。私、「眠り」は三十代以上のダンサーが踊るものだと信じて疑ってなかったので。

 
結論から言うと、失礼しました。この二人の踊りは前半のハイライト。マトヴィは、三年前の頼りないイメージを掻き消す、風格のある踊りっぷり。シンプルなジャンプもとても綺麗で、見事な王子様でした。それと彼は、ロシア系のダンサーとしては小柄な方かと思いますが、そのぶん小回りが効いて、シェネの連続なんかは見ごたえがありました。そしてチェルネンコ。そう、彼女は今が旬なんですよ。賞を取って自信もついいるし、心身とも充実している、非常にいい時期。いわゆる「時節の花」というのが咲き誇っていて、そのキラキラ感が、見事にオーロラにハマってました。もとが可憐なダンサーですし、彼女の一番良いところが出ていましたね。今後とも仲良く頑張ってください。



    草刈民代&レイモンド・レベック「レダと白鳥」


第一部ラストですが…これが期待外れ。元から「何でラカッラとピエールが居るのに、わざわざほかのダンサーの踊るプティを観ないといけないのか」と思っていましたが、悪い予感が的中しました。非常にエロティックにもなりうる振付だけど、そうもなりきれない。多分、超俗的な神々しさも必要なのかもしれないけど、感じられない。観たかった演目ではありますが、観た気がしないのです…



    吉田都&フェデリコ・ボネッリ「DarknessLight


この日のチケットを買ったのは、ほぼ半分は、都さんが観たかったからですが…これは振付が期待外れ。亡くなられた高円宮殿下に捧げる作品とのことですが、一言で言えば「面白くなかった」。衣装は黒いシンプルな練習着風で、九つの正方形に分割された床の照明、ホリゾントに映る、レッスンバーを髣髴とさせる横線状の光、クラシックベースの動きと、イメージは一応、一貫しているんでしょうか。でも、綺麗に三分割された音楽が全然繋がらないし、そもそも振付の意味が理解出来ない。都さんが踊るなら、もっと良いものが幾らでもある筈…と。


 ただ、それでも観られたのは、都さんの力です。空気のように軽やかに舞い上がるリフトの数々、まったく狂いの無い回転、精密な脚さばき。それでいて厳しさを一切感じさせない、繊細で暖かみのある雰囲気…まさしくビデオで観て憧れていた、都さんそのものです。パートナーのボネッリは、系統的には、同じイタリア人のロベルト・ボッレと似たような感じ。柔らかくて、やはり暖かい雰囲気のダンサーで、都さんとはよく合っています。でも、出来ればこの二人で、アシュトンかライトの作品を観たかった…



    ルシア・ラカッラ&シリル・ピエール「白鳥の湖」


ラカッラ&ピエールには、以前マラーホフのガラでキャンセルを食らっているので、今度こそ観られて嬉しかったです。その反面、「何でプティじゃないの?」という気分もありましたが、まあ本人たちにしてみれば「またプティじゃなくてもいいでしょ?」という感じなんでしょうか。でも、実際観てみたら、この白鳥は非常に面白かった。パ・ド・ドゥじゃなくてグラン・アダージョの部分なんですが、普通ここは、オデットの揺れる心を表現して、なかなかジークフリードに体を預けきらないもの。でもラカッラは、殆ど「ぐったり」と言ってもいいくらいの勢いで、ピエールに凭れかかる。その様子が、ちょっと投げ遣りにも見えますが、反面、恐ろしいばかりに色っぽい。蠱惑的っていうのは、ああいうののことを言うんでしょう。王子の心に、体に、ぴたーっと一分の隙も無く貼り付いて、魅惑してしまうオデット。彼女に魅入られたからこそ、ジークフリードは破滅への道を進み始める…そんなオデットで、私にとっては非常に新しかった。ピエールは、アダージョなので殆ど支えるだけが仕事ですが、ノーブルで安定感があって、いかにも誠実なパートナーという感じでした。

敢えてひとつ愚痴るなら、これを踊れる二人なら、「レダと白鳥」も素晴らしかったでしょうに(苦笑)。



    マリア・コウロスキー&アルバート・エヴァンズ「Liturgy


NYCBから来ておいて、バランシンでもロビンスでもなく、クリストファー・ウィールダンを踊るのか、というのが素直な感想だったりして。いや、似合ってましたけど。考えるのをやめて、純粋に二人の体が持つ力だけを味わおうとしたら、それなりに楽しく観られました。特にコウロスキーの長身が闇の中に浮かび上がる姿は印象的でした。でもちょっと長くてダレたかな。



    ポリーナ・セミオノワ&イーゴリ・ゼレンスキー「シェヘラザード」


ゼレンスキーにも一回、キャンセル食らってるんですよね。あと彼は、複数種類の映像を観ているにも関わらず、不思議と良いコンディションで踊っていたものが無くて、非常に楽しみにしていました。ポリーナ嬢には早いだろうと思いつつ、「シェヘラザード」も観たかったですし。


 ポリーナ嬢は、まあやはり、ゾベイダを踊るにはまだ若くて、「すくすくと健全に」という印象が拭えませんでした。ルリさんの代わりに彼女がメドーラを踊ったら良かったかも。一方のゼレンスキーは、非常にダイナミックで野性的、力強いジャンプが目に焼きついて消えません。やっと彼の真価を観られて幸せです。相手役がポリーナ嬢なので、官能的にはなりきれない部分があったかもしれませんが、まずはお見事。


 でも敢えて言うなら、この作品は、官能的でオリエンタルなだけじゃなく、血の香りがするよな、残酷で危険な部分も必要ではないかと。そういう雰囲気は、二人とも無かったなぁ。ゼレンスキーがもっと別の、踊りなれた相手(例えばザハロワ)と踊っていれば別だったでしょうか。



    スヴェトラーナ・ザハロワ&アンドレイ・ウヴァーロフ「ドン・キホーテ」


そして大トリ。この二人、動きこそ先々週の新国立と変わりませんが、やはり最後ということを意識してか、間をたっぷりとって、優雅な風格ある踊りを見せてくれました。最初の片手リフトは、まるでザハロワが重力から切り離されるかのように、ふわりと浮かび上がっていて、それだけで客席から溜め息が漏れていました。とにかくこの二人のパ・ド・ドゥは、華やかでゴージャス。ザハロワのキトリは扇子の使い方も鮮やかだったし、アンドレイのバジルは鋼のように強靭で鋭い。この日は、ラスタやゼレンスキーなど、ジャンプの綺麗なダンサーが大勢居ましたが、「ジャンプといえば私でしょう」と言わんばかりの豪快なのを披露してくれましたし。ファンとしては嬉しいことに、この二人が今日の一番人気。地元のバレエ少女たちからも、ブラボーの声が上がってました。



    グランド・フィナーレ

ひとつだけ思っていたんですが、お祭りガラにしては、アンヘルのような「お祭り男」が不在で、みんな割と大人だな、物足りないな、とが…このフィナーレで吹っ飛びました。全体の構成はお祭りとしては不完全でも、締めを大騒ぎにすることで、強制的にお祭りとして終了させてしまうという…強引っちゃ強引ですが、効果的ではあります。何よりも、ここのハジケッぷりは素晴らしくて、客席のテンションも急上昇しました。あまりにめまぐるしくて全部は覚えていませんが、三組のカップルによる同時ピルエットや、アンドレイ、マトヴィ、ボネッリ、サンの四人による、超豪華なマネージュ、ポリーナ嬢のグラン・フェッテ、ザハロワ含む複数の女性の連続ピケ・ターン、ゼレンスキーの、凄まじくパワフルで速い、嵐のようなグランド・ピルエット。そして最後は、全員でフォーメーションを組んで、リフトやアラベスクを組み合わせて決めポーズ。ルグリのガラのように、「一繋がりのプログラム」として考え抜かれているのならともかく、やはりガラのフィナーレはこれくらいやってくれないと。楽しかったです。

 


 因みにひとつ注文をつけるなら、録音した音楽の質が悪くて、がさっとした嫌な音だったこと。地方なのでオケの調達が難しいのは分りますが…あと総括するなら、マトヴィ夫妻、ゼレンスキー、ザハロワ&アンドレイのロシア勢が、要所要所を締めた公演でした。

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