東京撤退後、上京シリーズ第一弾(苦笑)です。いやあ〜、偉大なるかなニーナ。素晴らしきなニーナ。そのほかに、何を言うべきか分りません。ニーナというバレリーナの素晴らしさを思い知り、幸福に浸った公演でした。言いたいことは、いっぱいあるんですけどね(苦笑)。

    グリーン

キャスト


ニーナ・アナニアシヴィリ  ドミトリー・ベロゴロフツェフ  セルゲイ・フィーリン

 
曲はヴィヴァルディのヴァイオリンで、指揮者でもある、セルゲイ・スタドレルが演奏しました。無音のままに幕が上がると、女性ダンサーたちの後姿があります。そこから、音楽が始まり、男女ダンサーのアンサンブル。そこに、ニーナ、ベロゴロフツェフ、フィーリンの三人が、ソロやパ・ド・ドゥ、最後はパ・ド・トロワを織り交ぜてゆく演目です。


 振付けについては、どうなんだろうなぁ…と思います。プティの「四季」にちょっと似ていますが、あれよりは「飽き」がきやすい。曲の表現かと思えばバランシンに勝てるわけも無いし、体の動きを味わおうとすると、ニーナたち三人と、コール・ドの皆さんの間に、もうどうしようもないくらいの差がある。テーマがあるかと思って探してみても、決して明瞭ではないし。ただ、三人のソリストの動きはどれも素晴らしかった。


 まずはニーナ。後で観たクラシックの演目と比べれば、表現も動きも大人しくて、超絶!という感じはしない。でも、彼女が踊っていると、舞台がぐんと広がるみたい。ラインの美しさも郡を抜いていましたし、舞台のどこで踊っていても、スポットライトが当たっているみたい。振付けもそうなっていますが、彼女はこの舞台の女王様ですね。


 ベロゴロフツェフ。彼は、ソロよりもニーナとのパ・ド・ドゥの方が良かったなぁ。ゆっくりした回転のリフトがとても力強くて、足元の安定感が抜群。回転のダイナミックなことは言うまでもありません。彼は、以前「眠れる森の美女」で青い鳥を踊って、ちょこっとトチった記憶しか無かったんですけど、やっぱりいいダンサーですね。力感があって、温かみがあって。彼の踊る「スパルタクス」が観たいな〜と、ふと思いました。


 そしてフィーリン!この日の出演者の中で一番良かったのが、意外にも彼。意外とか言っちゃってごめんね。というのも、今までテレビで観ても、世界バレエフェスティバルでも、そこそこのダンサーでしかなかったから。きびきび動くけど、キャラが薄いというか…ところが、この日の彼は違った!颯爽とシャープな身のこなし、細かく美しいアントルシャ・カトル、回転はベロゴロフツェフと比べればシンプルでしたが、見ごたえが違っていた。こんなに素晴らしいダンサーだと思ってなくて、凄い勢いで見直しました。



    セコンド・ビフォー・ザ・グラウンド


キャスト

ドミトリー・ベロゴロフツェフ  ラリ・カンデラキ

セルゲイ・フィーリン  インナ・ペトロワ

ユーリ・クレフツォフ  エレーナ・パーリシナ


テーマは「死の一秒前に、人はそれまでの人生の、幸福な時間と最も重要な瞬間のすべてを思い出す」という、アフリカの伝承だそうです。このテーマは最初から知っていたので、滅茶苦茶、期待していたんですよ。


 これは、とても素敵な振付けでした。特に、男女複数で行うリフトが独創的で面白く、ちょっとした手足の動きがかもし出す、微妙に泥臭い雰囲気もいい感じ。生命の賛歌という印象でしたが、終わりに行くに従って、何か胸にこみあげるものがあるんです。まあ、コール・ドのダンサーが大勢でダーッと駆けていくところなんかは、ベタだなぁ、と思いましたけど。でも、同じベタでも、最後、三組のソリストカップルが床に伏せ、真っ暗になった舞台で中央のスポットを浴びながら、男性ダンサーが踊り続ける…というラストは、何だかぐっときました。


 個々のカップルについて。一番良かったのは、ベロゴロフツェフとカンデラキ。生涯の伴侶に出会った男女の、深い情感のこもった踊りでした。カンデラキは、存在自体を今回になって知ったバレリーナですが、とても良いダンサーですね。くっきり、はっきりした自己主張の強い動きで、ボリショイのダンサーとも性質が合います。それと、跳躍の頂点での動きの広がりや、ポーズが決まったときのインパクト。雑だとか情感に欠けると言うことも可能かもしれませんが、あれだけパワーがあれば許されるでしょう。とても見ごたえがありました。ベロゴロフツェフは、純クラシックでないのなら、コンテンポラリーの要素が強い方が、良く動けるようです。小刻みなドラムの音にあわせた細やかなステップが素晴らしく、力強い回転も、「グリーン」の時よりずっと見ごたえがありました。彼ならきっと、「ノートル=ダム・ド・パリ」のカジモドなんかも、見事に踊りこなすんでしょうねぇ。


 フィーリンとペトロワ。このカップルは、まあそこそこ…でしょうか。前半より後半の、コミカルな動きの方が素晴らしかった。カンデラキとベロゴロフツェフが「夫婦」なら、実際に夫婦でもあるこの二人は、可愛い恋人同士。前半は、リフトを丁寧にやりすぎているのか、安全策を取っているのか、見ごたえに欠けていた面もありました。でも、ジタバタ動くフィーリンや、茶目っ気のある表情で流し目を送るペトロワは、本当に活き活きしていて、可愛かった。二度目のパ・ド・ドゥの動きも、遊んでいるようで楽しかったですし。この二人は「明るい小川」を観たい気分にしてくれました。


 もう一組の夫婦、クレフツォフとパーリシナ。この二人は…うーん、可もなく不可もなく。強いて言えば、ベロゴロフツェフ&カンデラキ、フィーリン&ペトロワの中間かなぁ。前者ほどシリアスでもなく、深くも無い。後者ほど軽やかでコミカルな感じも無い。息はよく合ってましたし、ここの集団リフトが一番、面白かったんですけど。


 最初にも書きましたけど、八割がたは、生命の賛歌に見えるんです。テンポよく、喜びに溢れていて…でも、どこかで気付いてしまうんですよね。音のせいなのか、振付けのせいなのか…これが、もうすぐ終わる、走馬灯なんだ、って。はっと気付くんじゃなくて、じわっと胸に染みてきて、その染みが広がってゆくのを、切なく見つめている感じですね。素敵なプログラムでした。


 で、ふと思ったんですよ。背が高いって不利だよなぁ、って。いやね、せっかくの機会なのに、ウヴァーロフはどうして何も新作が無いんだろう、って思ってたんですけど、これも「グリーン」も、アンサンブルの関係で、ソリストの身長は同じくらいでないと様にならない。当然、彼は却下ですよね。彼があと何年、一線級で踊っていられるか分りませんが、それまでに一体幾つ「これは」っていう新作に出会えるんだろう。その点、とても不安です。



    白鳥の湖〜ハイライト


キャスト

オデット/オディール:ニーナ・アナニアシヴィリ  

プリンシパル・ダンサー/ジークフリード王子:アンドレイ・ウヴァーロフ

ロットバルト:イラクリ・バフターゼ  女王:ショレナ・ハインドラワ


 うーむ…ニーナは最高、ウヴァーロフは、ポイントごとに観るべきものはあったんですけど、抑え目の踊り。今年に入ってからずーっとハードスケジュールで、来日直前に全幕を踊ったりもしてましたし、危惧はしてたんです。ええ、ばっちり使い減りしていた感じ。


それはともかくとして、この演出には異議があります。最初、あるバレエ団がリハーサルをしているんだけど、プリンシパル(ウヴァーロフ)の踊りが、芸術監督のお気に召さない。二人は険悪な雰囲気になり、プリンシパルはそのまま、不貞腐れて床に座り込み、寝てしまう。そんな筋から始まります。でも、流石にウヴァーロフ、監督のお気に召さないだけあって、気の抜けた踊り。というか、気を抜いてやってる。更に言うと、ただでさえ狭い東京文化会館のステージに、鏡やらバーやら(前回ガラの時の道具ですよね)があるので、あの長身が、真面目に踊れるスペースはもはや無い(「三つのプレリュード」はジャンプ無いからいいですけど、これは跳ぶし…)。その後の、「情景」に合わせて踊るパートは、相変わらず綺麗な、味わい深いアラベスクを見せてくれましたけど。でも、何にしても、こんな半端な形で踊らせるくらいなら、単純に踊りを並べただけのハイライトの方がずっといい。何か新たな試みを、という意欲は買いますけど。


 眠りに落ちたプリンシパルは、夢の世界に入りこみ、ジークフリード王子になります。ロットバルトのヴァリエーションや、コール・ドの白鳥さんも交えた湖のシーン。ロットバルトは、話自体をあちこち切っていて、彼の存在までクローズアップしてる余裕も無いのに、ヴァリエーションだけあるのは妙な気分です。白鳥さんたちは、合格点の演技ですが、これはそのうち、ボリショイで観たいかも。


 肝心のニーナとウヴァーロフですが、まずニーナ。一体、何であんな動きが可能なんでしょう!大胆で、繊細で、この上なく優雅で、ラインははっきりと強いけど、確かにその奥に、悲劇を秘めている。柔らかに波打つポール・ド・ブラ、細やかなパ・ド・ブーレ…もう、何をどう褒めても足りない。ウヴァーロフは、多少低調でもサポートの質は落ちないんで、プロムナードのところも、全身きっちり伸びていましたし。リフトのポジションが、夢のように綺麗。


 ニーナは、キラキラ輝く生命力が魅力のバレリーナだと思います。その彼女が死ぬかどうか、「瀕死の白鳥」を観るまでは、ずっと不安でした。だけど、あの白鳥も、この白鳥も、生命力の強さ、はっきりしたラインのぶんだけ、悲しみが強い。それが、もう圧倒的なんです。


 ウヴァーロフ。彼が低調だったからかどうか知りませんが、王子とオデットが「恋に落ちた瞬間」っていうのが、今ひとつ曖昧だったような気もします。ただ、さっきも書きましたけど、別にサポートの質は落ちませんし、アダージョでやる、最低限のことはやっていた。あと、彼の王子様は、とても内気な性格に見えます。たくさんの白鳥に翻弄されて、伝えたい気持ちを伝えられなくて、やっとオデットと二人きりになるまで、「貴女を愛している」と叫ぶことが出来ない…そんな風にも見えました。だって、彼がオデットに向けて広げる腕は、もうどうしようもないくらい、優しいんですもの。でも、それを包み込むニーナの腕は、もっと優しい。それは、男女の愛というより慈愛の腕です。「私も貴方を愛しています。でも、この愛は決して成就することは無い…私は大丈夫だけれど――どうか傷つかないで、愛しい貴方」…そんなところでしょうか。

 舞踏会。ここはもう、ニーナ・オン・ステージです。ポール・ド・ブラも回転も跳躍も、もう何もかも、圧倒的な迫力。いわくありげな眼差し、艶やかな雰囲気、これが誰かなんてどうでもいいから、屈服してしまいたい。とにかく休むことなく、どんどん押してくる。押し流される。でも、その感覚が、たまらなく快感なんです。ニーナの強さは、悲しみではなく、王子を、観客全員を巻き込んで誘惑する、凄まじいばかりの魅力に変わっていました。


 一方のウヴァーロフ。ソロまでは「そこそこ」でしたが、相変わらず高い跳躍。今日は回転の軸もわりと決まっていましたし。コーダの部分は、かなり良くなっていて、ほっとしました。彼の技は、確かにカブリオールも好きだけど、今回ロン・ド・ジャンプもとても良いなと再確認。滞空時間が長いせいもあって、とても広がりのある跳躍です。演技面では、この内気な王子様も、我々観客と一緒に、オディールの圧倒的な迫力にやられましたね。彼は、目の前の女性が正しく何者であるか、わかっていなかったと思う。ただ、魅了されざるを得なかったんです。彼女があまりに美しかったから。でも、オデットに誓った愛も偽者ではない。だからこそ、真実を突きつけられた時に、絶望するしか無い…まあそんなところでしょうか。


 そして最後、再び舞台はリハーサル室です。目覚めた…というか、夢うつつのプリンシパル・ダンサーのところに、再び白鳥が舞い降ります(凄い早着替えだ)。そして、彼に「赦し」を与える白鳥。プリンシパル・ダンサーは、再び彼女に愛を誓い…そこで幕が降ります。


 演出の仕方、場面の区切りなどに多大な問題はあったものの、筋自体は「あるダンサーが、『白鳥の湖』というバレエを愛するようになるまで」として、きちんと通ってるんじゃないかと思います(それが本家本元より面白いかは、また別として)。きっと彼はこの後、別人のように素晴らしい王子を踊れるでしょう。だからアンドリューシャ、次は全幕で、もっと良いのを見せてね♪

 
…ところで私、この演出については、一週間くらい前にジャパンアーツのHPで知ったんですが、密かに芸術監督=ファジェーチェフを期待してました(苦笑)。まあ、芸術監督の顔をした悪魔がご登場…っていうのは当たってましたけど。

 
それとこの日は、ヴァイオリンの部分を指揮者のセルゲイ・スタドレルが演奏しました。黒鳥のアダージョは、チャイコフスキーの音楽の中でも、最も好きなもののひとつだっただけに、ハズレでなくて良かったです。

 



    おまけ


ファジェーチェフが挨拶に出た時点で「お?!」と思いはしたんですが、最終日じゃないし、まさかね…の思いの方が強かった。しかしファジェーチェフ、わりとせっかちですね。通訳が終わらないうちに、次々と喋り出す(笑)…ところで、彼、ちょっと痩せました?


それはともかくとして、今回のガラでも、気前良く用意してくれました、特別おまけプログラム!やった!

 


「スパルタクス」より、アダージョ

ユーリ・クレフツォフ  エレーナ・パーリシナ

 
以前ビデオで観た、ムハメドフとセメニャカのような、口も利けないほど素晴らしい出来では、とりあえず無い。でも、仮に一部だけでも、生スパルタクスが観られて嬉しかったです。この二人は「セコンド・ビフォー・ザ・グラウンド」でちょっと影が薄かったし、嬉しかった。パーリシナはこっちの方が元気だったし、クレフツォフも、素晴らしいリフトを見せてくれて。実際に夫婦だから…というだけでは無いでしょうが、夫婦愛のアダージョ、という雰囲気はとても良く出ていました。

 


「ドン・キホーテ」より、アダージョ、グランド・ディヴェルティスマン

ニーナ・アナニアシヴィリ  アンドレイ・ウヴァーロフ  ほか

 
この「ドン・キ」を観られたのは、物凄く感慨深いですね。前回ガラをテレビで観たのが、バレエにはまったそもそものきっかけなので、私とバレエの原点にあるものを、観られたわけです。それにしてもニーナ、素晴らしい体力ですね。まったく疲れが見えない。ウヴァーロフは、まさかこのために温存してたのか?と疑いたくなるほど、こちらでは精彩があった。素晴らしく高い片手リフト、フィッシュ・ダイヴ、端正な回転…極めつけは、やはりニーナの長時間バランスでしょう。彫像のように揺るがない、素晴らしい安定感です。

 
それにしても、二人とも楽しそう。ニーナとウヴァーロフ、両方に言えることですが、二人とも本質的には、悲劇よりは幸福を踊るダンサーだと思うんです。観ていて幸せになるような演目…「眠り」や「ドン・キ」の方が、「白鳥」より合っている(苦手という意味じゃないですよ)。


最後にこの上なく幸福そうな二人を観られて、私も幸福になりました。あの「白鳥」だけじゃ、今日のウヴァーロフを許してあげないところだったんですが(苦笑)。

 アダージョが終わったら、今度はコーダ。ウヴァーロフのカブリオール&開脚ジャンプは、いつ観ても格好良い!フィーリンのカブリオールとグランド・ピルエットは、相変わらず冴えてました。ベロゴロフツェフとクレフツォフはマネージュ。それから、女性ダンサー二人(記憶違いでなければ、パーリシナとカンデラキ)のフェッテを前座に、ニーナのグラン・フェッテ!黒鳥の時もそうですが、全部シングルなのに、圧倒的な存在感を放つフェッテです。一回転ごとに、脚が翻るたびに、物凄い量のオーラが迸って、辺りを照らすみたい。


 そして女性陣が去り、舞台の真ん中にはウヴァーロフ。さあ今度は自分が…と回ろうとすると、四方を仲間たち(ボリショイ組とバフターゼ)に取り囲まれて「抜け駆けするんじゃねーよ」?「何、一人でやろうとしてるんだ」? 「ちぇっ、やらせてくれたっていいのに」と肩を竦めるウヴァーロフの様子が、変に可愛かった。前回はファジェーチェフがやっていた役ですが、弟分(?)として、彼が引き継いだんですね〜。そこから後はお約束、五人一斉のグランド・ピルエットを縫って、女性陣のピケ・ターン連続。会場のボルテージは最高潮で、多分、室温が数度、一気に上昇したんじゃないかな…


カーテンコールは延々と終わらないし、観客のテンションが、あまりに高くなりすぎて……最後の方、オケピットの前まで、後方の観客が押し寄せましたもんね(私も行ったけど)。みんながハイテンションで、満ち足りて、恐ろしいくらい幸せだった。そんな「ドン・キ」&カーテンコールでした。この日のメインは、「白鳥」じゃなくて、間違いなくこれです。


 因みにこの日、何気に出待ちデビューなど致しました(苦笑)。ウヴァーロフとベロゴロフツェフのサイン、無事にゲットして参りました。次回からは帰りの時間の都合もあるし、やってるわけにいかないと思うんですが…それにしてもウヴァーロフ、間近で観ると、やっぱり背は高いんだけど、顔が小さい…ひょっとして身長
158cmの私より小さいのでは…やめよう、悲しくなってきた(涙)。あと、間近で観ると、思ったよりずっと金髪に近い。写真で観ると茶色なんですが、茶色とアッシュを混ぜた金髪、くらいの色でした。ニーナとペトロワさんは美人だったし(パーリシナは、人ごみに紛れて顔を見てません)。終わり良ければすべて良し…ですか?

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