カタリナ・ヴィット(ドイツ)

【主な成績】

84サラエヴォ五輪・88カルガリー五輪金メダル、84858788世界チャンピオン

 

 銀盤の大女優。女王とも呼ばれましたが、私はこの方が相応しいと思う。確かに、その演技を観れば、その気品、迫力と貫禄には並ぶ者が無く、まさしく女王とも思わされる。でも、強烈な自我を持ち、それを自ら演出して氷の上にプロデュースする、表現力と存在感が何よりも勝る。自分が出来ることと、どう観られているかを熟知し、巧妙にキャラクターを創って、堂々と演じていたスケーター。その中に、自分のやりたいことを鮮やかに織り交ぜていった表現の巧者。私にとっては彼女はそういうイメージです。

 

 

8788シーズン

SP「ブロードウェイメドレー」、FS「カルメン」、EXI am what I am」「Bad

 SPは色々なミュージカルのメドレーですが、衣装やメイクも含め、あざといほど華やかでコケティッシュ。「こういう女はお好きでしょう」という小悪魔なアピールは、下品すれすれですが、ここまで徹底すれば、いっそ見事。

FSは彼女の代名詞ですね。はっきり言って難易度は低いです。トリプルジャンプは2種類4つのみ、技術的に何もしていない滑走がリンク1周分続いたりもする。でも、それらはすべて、自由な悪女を演じきるためには必要な時間なんですよね。輝くような華やかさ、毒のある妖艶さ、他を圧するようなオーラの迫力。それらはすべて、世間が抱くヴィットのイメージに、ある程度忠実だったんだろうと思いますし、相当程度、ヴィットの強い自我を反映していたと思う。そんなものをしゃあしゃあと、しかもドラマティックに演じきってしまった彼女は、やはり大女優の名が相応しい。

それにしても…この優れて確信犯的なプログラムの次に来るEXが「I am what I am」に「Bad」だなんて、タイトルだけでも出来すぎ…あっけらかんと滑ってましたけどね。大柄なだけに細かい動きは苦手なイメージがあるヴィットですが「Bad」の踊りまくりは爽快でした。

(振付:カタリナ・ヴィット)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=X9m1Z9Izcpg&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=57R7aAY5QiM&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=FmXAZo9YJac&feature=player_detailpage

  http://www.youtube.com/watch?v=of0hvXnlacQ&feature=player_detailpage

 

 

9394シーズン

SP「ロビン・フッド」、FS「花はどこへ行った」

 プロからアマチュアに復帰しての五輪ですが、女子なら3回転は5種類跳べて当たり前、になってしまった時代に、よく戻ってきたものと思います。現役時代、跳べなくもないけど避けていたトリプルループを、一応習得して。とりあえずその負けず嫌いさだけでもお見事ですが、ステップからのジャンプがダブルしか入れられなかったSPを、これ以上無いくらい堂々と滑ったのは流石です。男装の麗人、という趣のロビン・フッドでしたが、例えばスピンの出など、心憎い計らいが幾つもあって、「子供と違って綺麗でしょう?」というアピールは十分、利いていたと思う。

 そしてFS――サラエヴォに捧げた反戦歌。彼女が本来、どういう意図を持ってこの曲を選んだかは知りませんが、純粋に平和を訴えかけたいだけでなく、最も効果的に人の心に訴えるために、あざとい表現方法を選んだ、という説は、ある程度正しいと思う。でも、それを偽善に終らせないで、嘘でも本当でも心を打ってしまったのが、大女優の所以ではないかと思います。それにしても、このプログラムを覆うスケーティングは美しい。ターンが180°なら180°、360°なら360°ジャストで綺麗に決まるんですよ。エッジが氷を支配している、と言えるくらい。やはり彼女は、自分に何が出来て、何が他の選手と差別化出来るところかを熟知していた。そして、イーグルひとつであれだけ「語れて」しまうのも、彼女にしか出来ないことですね。あの瞬間の存在感と、それが持つ訴求力はずば抜けていた。感動とは高度な計算の上に成り立つ表現だと思いますが、この時の彼女はそれを地で行っていました。

(振付:カタリナ・ヴィット)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=hmrprWr-kUM&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=8GrhyrZOdtM&feature=player_detailpage

 

 

I’m the Only One

 グリンコフ追悼公演で滑っていたナンバーですが、湿っぽい作品が多かった中で、太陽のように燦々と輝いていた作品。「Bad」と同系統の踊りまくりですが、大柄な身体でも歯切れ良く、メリとハリなら「ハリ」の方を強調したエネルギッシュなダンス。観ていて爽快でした。

 

 

「私だけに」

 ミュージカル「エリザベート」のハイライトナンバーですが、歌詞の内容が彼女にぴったりですね。プログラム自体はシンプルで、強烈な押しがあるわけでもないのですが、敢えてこれを選んで滑るところが、彼女らしいなぁと思います。

 

http://www.youtube.com/watch?v=yR-OCEnnqZ4&feature=player_detailpage

 

 

If I Could

 ロマンティック&ドラマティックな男性ヴォーカルに合わせてのプログラムですが、渋いハスキーな声も似合ってしまうところが、大人の女性。既に若くもなく、運動量はかなり少なめのプログラムですが、そうなった時に何が残るかを、如実に語るプログラムでもある。未だに女王という言葉を彷彿とさせる風格、無駄の無い深いスケーティングとライン、しっとりした艶やかさ。大女優ヴィットに、醜く老いるという言葉は無く、その時々の美しさと存在感で、燦然と氷上に君臨し続ける。そこまで含めて、彼女の表現は完成されているんだと思います。

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