ヴィクトール・ペトレンコ(ソ連/ウクライナ)

【主な成績】

92アルベールビル五輪金メダル、92世界チャンピオン

 

 最も美しい貴公子であり、最もサービス精神に溢れたエンターテナーでもある。一見、矛盾しそうなその二つを、とても高いレベルで兼ね備えているスケーターです。その基礎になるのは、隅々までよく制御された抜群のボディコントロールと、何をしていても崩れない「踊り」の基礎、端整なスケート技術。どういう風にでも身体を使えて、何をしていても無原則にならず、綺麗にこなす姿は、いつ見てもやはり美しい。すっごく笑えることをしている時でも、です。

 

 

8788シーズン

SP「曲名未詳」、FS「ドン・キホーテ」、EX「アヴェ・マリア」

 SPFSともにスペイン風で仕上げてありましたが、SPはとにかく若くて引き締まった、シャープなところを強調する動き。一転してFSは、彼の気品のあるムードや、バレエ的で美しい所作を存分に見せる一方、溌剌としたジャンプも堪能出来る作り。「ドン・キ」はフィギュアで使うと踊りの上手下手が残酷なくらいはっきり出てしまう音楽ですが、彼の動きは何処にも隙が無く、ちょっとした足の運びまで完璧に「バレエ」。いやいや、ここまで格調高い作品じゃないんですよ、とバレエファンの立場から苦笑したくなるくらい。そして最大のポイントは、すべてをスケートの「流れ」の中でこなしていたことで、エレメンツの見ごたえもたっぷり。そういうバランスの面でも、とても端整な作品と言えたでしょう。

 EXは、ちょっと変わったアレンジのシューベルトで、彼の腕の動きの美しさ、レイバックスピンの優雅さをじっくり味わえる作品。彼なら小細工無しのアレンジが、きっと最も美しかっただろう、と言うのが、唯一の難点です。

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=C4Jw81aAFGU&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=RKj0E4U4zrY&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=a6_NSZGHNDc&feature=player_detailpage

 

 

8990シーズン

SP「ボニー&クライド」

 あれだけエレガントな美しさを誇示してきた人が、いきなりこんなことやっちゃっていいの、という、アメリカナイズされた作品。軽快でダンサブル、娯楽色も強く、衣装は派手なプリントのシャツだし、思わず唖然としてしまう。でも、散々踊りながら、ちゃんとエレメンツは入っていって、かなりきちんとした競技用プログラムでもあるんですよ。その辺りのバランス感覚は流石。そして、この触れ幅の広さも流石。

 

http://www.youtube.com/watch?v=QimoBJwAdbE&feature=player_detailpage

 

 

9192シーズン

SP「カルメン」、FS「シチリアの晩鐘他」

 SPは、編曲がかなり掟破りで、前半は鐘の音だけ、後半やっと「闘牛士の歌」が始まります。それまでの、下手をすれば異常に長くなる1分少々を持たせるのは、他の何でもなく、滑りのシャープさであり、動きの持つ迫力であり、演技の集中力なんですよね。そこから後半の華やかさへ変わる時のコントラストも素晴らしい。FSは、最初に何気なく両腕を広げた瞬間、ポール・ド・ブラという言葉が、ふっと思い浮かびました。その後、エッジで小さなカーブを描く姿も優雅に美しく、ただのランでも隙が無い。さっと差し伸べられた腕の柔らかいライン、女子選手顔負けの繊細なレイバックスピン、中盤の制止から、流れるようにムーヴメントを繋いでいく辺りも…すべてが、溜息が出そうな気品に包まれていて、ものの見事なダンスール・ノーブルを「滑って」います。正直に言うと、曲はかなりの切り貼りで、全体を通した一貫性はありません。それなのに、彼の持つ優雅さですべてを纏めて、ところどころで雰囲気を変えながら、4分半見せてしまう。ポーズひとつで、さも自然にすべてが切り替わるんですよ。ある意味、「銀盤の貴公子」の真髄が見られるプログラムですね。

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=zOpOI6ArJco&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=f1edcCIy7Vw&feature=player_detailpage

 

 

9394シーズン

FS「椿姫他」、EXBaila Mi

 FSの傾向は2年前と同じで、曲はぶった切り、それでも彼の優雅さで何となくすべてを綺麗に見せてしまうというものです。指先の柔らかさと腕の表情の多彩さは、既にフィギュアスケーターのそれを超越しているかもしれませんね。一転してEXは、ジプシーキングスのナンバーに合わせて、軽快に踊りまくる。ジャンプはひとつしか入っていませんが、ステップと踊りだけでも驚くほど楽しいのが彼の持ち味。エンターテナーの真髄はここにあります。

 

FShttp://www.youtube.com/watch?v=PDFsgBppuII&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=EVXfEBRUCvU&feature=player_detailpage

 

 

「街の灯」

 スローテンポで音量も小さな音楽に合わせて、ただゆったりと、穏やかに、優しく…というプログラム。常人がやったら、単にダレてお終いです。それを味わい深く見せられるのが、彼のスケートの美しさであり奥深さだなと思う次第。

 

http://www.youtube.com/watch?v=czp9uOf_fPc&feature=player_detailpage

 

 

「ロミオとジュリエット」

 恋に燃えるロミオと言うよりは、もっと大人の、深くて落ち着きがある音楽表現。悲劇の重さを感じさせるようなシリアスさが印象的です。構成に関して言うと、終盤の30秒ちょい、プロコフィエフの音楽が入るところは余計かな、とも思いますが…

 

http://www.youtube.com/watch?v=5MnSGPdgrms&feature=player_detailpage

 

 

「シルク・ド・ソレイユ」

 ジャグラー、ピエロ、怪力男…パントマイムを駆使して、次々とサーカスの登場人物になりきる、ユーモア&ペーソスの世界。次々と変わっていく、その表情とキャラクターの豊かさには目を奪われます。コミカルで楽しい、可愛い、でも同時に、お高く止まったわけじゃない、とてもいい意味の上品さも保っている。ちょっと芝居に傾きすぎるきらいもありましたが、基本的にはスケートの動きに即した振付で、ジャグリングを模したステップは秀逸でした。それからラストの、寂しげな表情も素敵。軽いコメディで終らせないで哀感を滲ませる辺りに、エンターテナーとしての奥の深さを感じます。

 

 

「マンボNo.5

 身体の前の部分に、女性の人形を縫い付けて、ダンスホールドを組んで滑るという、ギャグ要素の強いプログラム。動きはとにかくコミカルですが、スピンを回ると人形の腕が遠心力で動いて、ちゃんとペアスピンに見えるのがエライ。そして、その人形をあくまでもパートナーとして大真面目に扱い続け、コメディを演じきる姿が可笑しい。

 

http://www.youtube.com/watch?v=LEZBCRkAg4k&feature=player_detailpage

 

 

「マック・ザ・ナイフ」

 年齢に相応しい、ダンディな雰囲気が素敵なプログラム。動きはコミカルに味付けてありますが、それでもやっぱり上品な身のこなしで、滑りも綺麗。往年の王子様姿を知るファンには嬉しい近影と言えるでしょう。

 

http://www.youtube.com/watch?v=9_SU502lidE&feature=player_detailpage

 

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