マリナ・アニシナ&グェンダル・ペイゼラ(フランス)

【主な成績】

02ソルトレイクシティ五輪金メダル、00世界チャンピオン、0002欧州チャンピオン

 

 最愛のスケーターの1組です。彼らを好きになって、フィギュアを真面目に観始めた、という思い入れもあるし、ファンレターの返事をくれた恩義もあるし…でも、そういうプライヴェートな思い入れを除いていっても、その独創的かつシアトリカルで華やかなスタイルは、不動のマイ・ベスト。歴史に大きな名前を残すカップルではないかもしれないけれど、色んな意味で絵になる2人であり、美しい絵を作る2人であり、美しさを飛び越えていく勇気もあった2人だと思います。炎のようなファム・ファタルと優雅な貴公子。その個性も破格なら、演じた世界も一筋縄ではいかないものが多かった。ある意味、こだわりのカップルだったのかもしれない。とにかくも、見習った先輩も居なければ後に続く後輩も居ない、地味に不世出のカップルだった、と思っています。

 

 

9394シーズン

FD「フラメンコ」

 彼らのキャリアは、実はフラメンコで始まってフラメンコで終わるんですよね。そして、最後のフラメンコから比べると、笑ってしまうくらい、若くてシンプルな踊り。フラメンコというよりは寧ろ、スパニッシュ音楽を使って滑ったただのFD、と言った方がしっくりきますね。雰囲気の面、特に暗さと叙情性は、やはり見るべきものがありますし、まだ組んで間も無く、言葉の問題も残っていた割には、全体的によく合っていましたけれど。

 

http://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=3cnHLcJvSBs

 

 

9495シーズン

FD「タンゴ」

 前のシーズンに引き続き、な印象かな。タンゴの割にはタンゴっぽいステップを踏み切れていないところに、若さと経験不足を感じる。相変わらず雰囲気はいいんですけどね。

 

http://www.youtube.com/watch?v=7iNdAF7uqUs&feature=player_detailpage

 

 

9596シーズン

OD「パソドプレ」、FD「サンバ/ルンバ/マンボ」、EXI’m Sorry

 ODのパソドプレは、陽性のオーラを燦々と出していて、エネルギーはあるしハイライトも創れているんだけど、スパニッシュなら、そしてパソドプレなら、もっと全体的にハリとインパクトが欲しいかな、というところ。ラテンミックスのFDは、これまでの歯痒さが抜けて、明るく、一気に駆け抜ける感じ。若くて新鮮で、とても溌剌としたダンスです。そこから一転してEXは、戦場からの帰還兵と、生きるために娼婦に身を落としていたその妻の、再会のストーリー。シアトリカル系の、本当の最初にある作品なのかな。短いナンバーですが、古い映画を観ているような、セピア色の哀愁を感じます。

 

OD http://www.youtube.com/watch?v=s_RWkuULmgQ&feature=player_detailpage

FD http://www.youtube.com/watch?v=H3WYAsffofc&feature=player_detailpage

EX http://www.youtube.com/watch?v=l22lCVm1goM&feature=player_detailpage

 

 

9697シーズン

OD「ヴォルベール」、FD「アーラ・レイラ」、EX「カリンカ」

 ODは、ザズーイ門下生らしい、美しいフロー&グライドのタンゴ。深いカーブでタンゴのインパクトを作っているところが、上手いなぁと思います。恐らく彼らの作品の中では、最もステップだけで見せている作品じゃないかな。FDはアラビア音楽で、マリナは砂漠の美しい幻を演じます。端的に言うと、エキゾチック&ダイナミック。全身を大きく使って、後年それほどこれ見よがしでなくなるリフトも、ここではかなり大きくしてあります。EXはお馴染みのロシア民謡で、グェンは鞭を振り回したり、お酒に見立てたコップを呷ったり、果てはコサックダンス(あの、かがんだ状態で足を前に蹴り出すやつ)を披露したり、かなり遊んでました。ロシア人のマリナに似合ったことは言うまでもないですが、陽気で可愛いナンバーです。

 

OD http://www.youtube.com/watch?v=gpL9K4WyoTM&feature=player_detailpage

FD http://www.youtube.com/watch?v=-pZHMV8mlwA&feature=player_detailpage

EX http://www.youtube.com/watch?v=MQd01F4XuwU&feature=player_detailpage

 

 

9798シーズン

ODCrutch and Gab It」、FD「ロミオとジュリエット」、EXTime to Say Goodbye

 グェン自らが振付けたODは、低い姿勢の使い方が印象的で、彼の意外な器用さが全開。流石、自分のことはよく分っているみたいですね。ハイライトのステップシークエンスはとても鮮やかです。FDはプロコフィエフの音楽ですが、この音楽を使った他のスケーターと大きく違うのは、中盤のスローパートに「ジュリエットの死」を、かなり長く用意していること。全体の構成から言うと、ロミオの亡骸を見つけたジュリエットから始まって、走馬灯があって、彼女の死で終わる、という感じだと思うんですが、この走馬灯部分を充実させて、ロマンチックで劇的な仕上がりにしていると思う。後から思えば意外ですが、彼らはここでやっと、その劇的な持ち味を見せるわけですよね。それと、後に代名詞となるリバースリフトも、この作品にだけ二つ入っています。

 EXは、長い間彼らの代表作となるもの。FDが「恋」なら、これは「愛」かな、という陳腐な言い方も出来ますが、最初のポジションだけ観て、どきりとしたのを覚えています。衣装が極限までシンプルなので、かえって情感とラインそのものの美しさが際立つんですよね。曲の雰囲気そのままに、壮大で感動的。かなりの大技を取り混ぜつつ、流れの中で見せてしまうところも彼ららしいけど、すっきりシンプルには演出しないで、ゴージャスで重厚な仕上がりにしているところもまた、彼ららしい。個人的には、彼らの作品の中でもベストのものだと思う。

(振付 OD:グェンダル・ペイゼラ)

 

OD http://www.youtube.com/watch?v=wSh-bb4ttwI&feature=player_detailpage

FD http://www.youtube.com/watch?v=N4Wqpc4xL5Q&feature=player_detailpage

EX http://www.youtube.com/watch?v=sLchGRctH6k&feature=player_detailpage

 

 

9899シーズン

ODMy Sweet and Tender Beast」、FD「仮面の男」、EXTime to Say Goodbye

 ODのワルツは、敢えてウィーン系から遠く離れて、ロシア音楽を使用。結果、華麗だけどそこはかとない哀愁の影と退廃の香りを漂わせた、独特の世界に。特に何かが設定されているわけではないでしょうが、何かしらストーリーを読みたくなる、豊かな行間を持った作品です。FDはグェンがタイトルロール、マリナがその運命を演じます。ステップの複雑さよりは流れの美しさを重視した構成で、物足りない、という意見も一理ある。だけど、何ものにも変えがたい流れではあるんですよ。そして、クライマックス「Heart of a king」を中心にした、一瞬たりとも気を抜けない編曲を、劇的に演じきったと思う。留まるところは無いけれど、一挙手一投足から気迫が光になって迸るような緊張感もあったし、相克のドラマの濃密さもあった。実際、スピード感は凄まじいものがあります。それからこの作品は、リフトがどれもシンプルなんだけど、これ以上ないくらい曲想にマッチしていて、大したことをしていなくても、嘆息してしまうことが多々ありました。グェンは現役時代の作品の中でこれが1番のお気に入りだそうですが、確かに、彼らのエッセンスの多くが、ここに現れているなと思います。

 

OD http://www.youtube.com/watch?v=QtS5MQvRi44&feature=player_detailpage

FD http://www.youtube.com/watch?v=fKnHW5vOawU&feature=player_detailpage

 

 

9900シーズン

OD「ブラック・マシーン/パッション/トレス・デオセス」、FD「カルミナ・ブラーナ」、EX「エスメラルダ」

 ODのハイライトは、全体の3番目に、全カップルの中でも珍しく採用されたメレンゲでしょう。情熱よりも、妖艶さよりも、明るく楽しいエンタテイメントとしてのダンスが楽しめます。一転してFDは、これ以上無いくらい重厚で豪奢。オルフの世俗カンタータから、最終楽章「運命の女神の歌」です。グェンは修道僧、マリナは誘惑や欲望を司る運命の女神。ただ「仮面の男」ほど2人の役割の対比が重要なわけではなくて、2人でこの音楽になることが重要な作品だったかなと思います。最初は、音楽といいステップの構成といい、あまりにヘヴィでとっつきにくい作品だと思いましたが、飲み込まれてしまったら深くて出てこられない作品。

 EXはミュージカル「ノートル=ダム・ド・パリ」から。死せるエスメラルダに「もう一度だけ踊っておくれ」と慟哭するカジモドの歌ですが、原作を知っていると泣ける。このプログラムでは、エスメラルダは踊る。そしてカジモドを置いて翔けり去る。別れの間際の、切なく美しい夢。それは、原作には無かったカタルシスなんですよね。そしてこのプログラム、実は全体の約半分がリフトで、最長のものは30秒あるんですよ。凄い力技。それを微塵も感じさせないのは、やはり素晴らしい技術とドラマ性ですね。

(振付 ジェーン・トーヴィル&クリストファー・ディーン)

 

OD http://www.youtube.com/watch?v=eEX7h_3fQ0Y&feature=player_detailpage

FD http://www.youtube.com/watch?v=fm18VlVQR2g&feature=player_detailpage

EX http://www.youtube.com/watch?v=LQO-od6NcYI&feature=player_detailpage

 

 

0001シーズン

ODMOREDancin’ Fool」、FD「ベートーヴェンズ・ラストナイト」、EX「スザンナ」

 ODはクイックステップとフォックストロットですが、軽やかで小粋でお洒落で、「シャンパンのように華やか」という表現がよく似合う。これぞボールルームと言いたくなる雰囲気でありステップであり、ステップに織り交ぜるようにリフトやスピンも配されている。そしてFDは、彼らのファンになるきっかけの作品、イコール人生を変えたプログラム。前作でステップの限界に挑んだ2人が、流れの美しさに全精力を傾けた作品と言えるでしょうか。今度はグェンがベートーヴェン、マリナがそのミューズを演じて、彼の人生最後の夜の物語を織り上げてくれますが、何の説明もなくても、浮かび上がるようにストーリーが見えてくるようなプログラムです。派手さは無い、寧ろさりげないくらいの振付、ステップですが、極限まで洗練された流麗さ。徐々に広がってゆく光がいつの間にかリンク全体を包み込み、観る者を別世界にいざなうような印象を受けます。で、このプログラムの裏ハイライトはさりげないリバースリフト。小さなリフトですが、恐ろしいバランス力です。

 でも、このシーズン特筆すべきは、意外とEXかもしれません。これまでのものとは一線を画した、ラブコメ仕立てのプログラムで「本命の彼女とのデート中に他の女の子から電話がかかってきて、コテンパンにのされる浮気男の喜劇」といった趣。でも、ドタバタにしすぎないでそこそこお洒落に決めてしまうのは、センスの良さですよね。そして、踏まれたり蹴られたり、過剰なほど体を張っているグェンですが、同時に彼の、男性としてはかなりの柔軟性やバランス力もご堪能あれ。彼らはリバースリフトのオリジネイターですが、あれが決まるのは、グェンのこういう器用さと、マリナのさっぱりした強さがあるからなんですよ。男がひ弱に見えても駄目、女がごつくさく見えても駄目。技術じゃないところのハードルが、変に高い技なんです、あれは。

(振付 FD:クリストファー・ディーン、EX:アレクサンドル・ズーリン)

 

OD http://www.youtube.com/watch?v=iWGtHkukHjI&feature=player_detailpage

FD http://www.youtube.com/watch?v=hv8vHGvD_RI&feature=player_detailpage (NHK杯)

  http://www.youtube.com/watch?v=dat0s5U9N6k&feature=player_detailpage (世界選手権)

 

 

01-02シーズン

OD「マラゲーニャ/タンゴ・デ・グエル」、FDLiberta」、EX「スザンナ」

 ODは、後年まで彼らの代表作となるスパニッシュダンス。込み入ったステップで魅せるフラメンコと、ゆっくりじっくり味わわせるタンゴのバランスも秀逸ですが、意外と重要なのは、タンゴのパートがちゃんとスパニッシュだったこと。ここでうっかりアルゼンチンに行ってしまったカップルが、このシーズン多かったですから。実際スペインに行って、本場のプロの指導を受け、振付けて貰ったというこの作品は、回転の質とかインパクトの作り方といった技術的なものも、陰影や情熱といった表現の面でも、ものの見事にスパニッシュ・フラメンコでした。

 そして、「自由」をテーマにしたFDでは、モダンダンスの振付師とのコラボレーションを披露。グェンは束縛されたもの、マリナが自由の女神を演じますが、このプログラムの中のマリナが、歴代最もファム・ファタルの存在感を輝かせていました。技術的に言うと、量は少なくても密度十分のステップを効果的に際立たせる構成。振付的に言うと、「天に向かって掲げられた手」というモチーフで全体を纏めていあります。この統一感は、目先の綺麗な動きに傾きがちなフィギュアの振付師ではなくて、ダンスの振付師の創ったクオリティだな、という感じ。因みにリフトは、ひとつを除いて他のスケーターが類似のヴァリエーションをやっているのを観たことが無い、というレベルの独創性を誇ります。そして表現の面で言うと、彼らの豪奢で劇的な持ち味を、ただ綺麗なだけでない、コンテンポラリーの表現で魅せていると思う。

 つらつら言えばこんなプログラムですが、よりによってアメリカでの五輪で、キング牧師の演説を引用し自由を謳うプログラムを滑ろうなんて、その斬新さ、危険性と挑戦的な姿勢が、彼らの勇気であり、フランス的な持ち味だったと思う。その華やかさや重厚感は、マリナがロシアから持ってきたものだとしても。結局、その交差点に、彼らは立っていて、何をしている時でも、深い流れの美しいスケーティングですべてを演じきった。大衆受けする美しさを手放した、最初で最後の作品でもあるけれど、間違いなく、彼らの集大成ではあるんですよ。異端の最高傑作と言うべきなのか。いずれにしても忘れられない作品です。

(振付 OD:アントニオ・ナハロ&パスカル・ガナハ、FD:ブリュノ・ヴァンデリ)

 

OD http://www.youtube.com/watch?v=eT968f7Q4oA&feature=player_detailpage

FD http://www.youtube.com/watch?v=RuzCdfFoFyk&feature=player_detailpage(ラリック)

http://www.youtube.com/watch?v=FVKlJw8ttrE&feature=player_detailpage(五輪)

EX http://www.youtube.com/watch?v=2EQkpLWPlOY&feature=player_detailpage

 

 

Diablo in Me

 「スザンナ」の更に発展形、おふざけプログラムの趣。グェン演じる神父を、マリナ演じる悪魔が誘惑してすべてをシッチャカメッチャカにする…という設定は、決して「カルミナ・ブラーナ」の発展形ではありません(笑) 出だしからしてわざとらしくコメディタッチ、神父の抵抗はすべて虚しく空振りし、最後はヤケクソのように踊りまくり。エンタテイメントとして非常に可笑しく、楽しい作品です。それとマリナは赤い角をつけて出てきますが、これが反則レベルの可愛らしさ!

 

http://www.youtube.com/watch?v=gulLCb6QDcQ&feature=player_detailpage

 

 

Falling

 R&B調の女性ヴォーカルに合わせて、ダンスホールドを組んだ状態よりはセパレートの状態、シンクロの動きが多いプログラム。モダンで洗練されてお洒落で…という感じかな。衣装の黒いボディタイツには骨が描かれていて、歌詞がヒアリング出来たら、きっともっと意味が分るんでしょうけど。

 

http://www.youtube.com/watch?v=EuFDYsdgSwI&feature=player_detailpage

 

 

「アデュー」

 男女の別れをテーマにしたドラマチックな作品で、テーマ的にも表現の方法も、彼らの十八番という趣です。演技の流れを音楽に乗せていく感じですが、サビの辺りの盛り上がりは、それはそれは見事なもの。彼らはやっぱりフロー&グライドで演じてこそだな、と思います。それとグェンは、脚が高く上がってスパイラルがとても綺麗です。

 

http://www.youtube.com/watch?v=TNoq415ac9s&feature=player_detailpage

 

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