イザベル・ドゥロベル&オリヴィエ・ショーンフェルダー(フランス)

【主な成績】

06トリノ五輪4位、08世界チャンピオン、07欧州チャンピオン

 

 エレガンスの粋を極めた、さりげなさとシックさ、そして奇抜ではないけれどいつも独創的なアプローチ。彼らの特徴を言うとこんなところでしょうか。はっきり言って、損なタイプのカップルだと思う。実は凄いことをやっているんだけど、見せつけがましくないから、地味に映る。あざとくて分り易いプログラムなんか、金輪際滑らない。やりようによっては、もっと実績を積み重ねることが出来たんじゃないか…と疑うことも多々あります。ただ、彼らは素晴らしく美しい「流れ」を持っていて、その流れの中に、あまりにも自然に、さりげなく、すべてのエレメントを組み込んでいく。それで、その中にはいつも、はっとするようなアイデアも光っていて。でもすべてがたゆまず流れていって。その「流れ」を通して観ていて、ああ、これをこのまま観続けたい、と思わせるカップルなんです。

 

 

9900シーズン

FD「ドント・ルック・バック」

 ピエロをモチーフに可愛らしく仕上げたFDですが、いかにもフランスらしく、エスプリが利いてお洒落な仕上がり。ただコミカルなだけでなくて、独創的で大きなリフトを軽やかに見せたり、「仮面の向こうの底知れぬ闇」を仄かに匂わせたり、奥行きのある作品になっています。スタート部分の振付が出色ですが、ルネ・オーブリーのミニマルな音楽そのままに、飽きがこない演技で4分間を通してくれます。

 

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=gzvx0MIrZRg&feature=player_detailpage

 

 

0001シーズン、0102シーズン

FDVivre pour le Meilleur

 最初のシーズンは、重厚で劇的な、と言えば終われるFDでした。問題はその次のシーズン、新しくエジプト音楽の「Songs from the Victorious City」で創ったFDがあまりに無難だったことから、前の作品をブラッシュアップしました。これで、このFDは生まれ変わったと思う。「最高の瞬間を生きる」という意味のタイトルですが、彼らの出来る限界ギリギリ、多分ちょっと上の難易度くらまで詰め込んだステップや、旧作よりも更に大きくなり、それだけで造形美術のように美しいリフトの数々、深くて豪華な表現…ハイライトはリフトと言って差し支え無いと思いますが、繋ぎもぎっしり詰まっていて、全編見せ場でないところが無いくらいの濃密さ。まさしく彼らに出来る、本当に最高の4分間を体現したFDでした。

(振付:ニコライ・モロゾフ)

 

FDhttps://www.youtube.com/watch?v=CLxcOscr-ZE02年版)

 

 

0203シーズン

OD「千夜一夜物語」、FD「未知なる世界へ」、EXVole

 ODは流れのある綺麗なワルツ&ポルカで、強烈な印象こそ残しませんが、試合を重ねるにつれてどんどん自然になっていった。大柄で氷上映えするオリヴィエと、それより20pも背が低く、自由自在に動くイザベルの組み合わせは、今まで時折、窮屈そうに見えたんですよね。特にシンプルなダンスホールドを組んだ時に。それが消えたのはここだったと思う。FDは、前作で無理をしすぎたかもしれないステップの難易度を少々落として(それでも上下の順位のカップルに比べれば難しいことをやっていましたが)、流れを重視した作品。リタ&ヴァナガスの振付ですが、元々リフトに定評のある2人が、同じくリフトに定評のある先輩の作品を踊って、似合わない筈が無いですよね。正直、ローテーションの時などは、このリフトはヴァナガス氏がやった方が鋭いな、と思うこともありましたが、身長差を活かしたダイナミックなパートや低い姿勢のムーヴメントなど、見所はたっぷり。ヴァンゲリスの音楽は決してドラマチックではありませんが、この作品も試合を追って磨かれていきました。EXはセリーヌ・ディオンの伸びやかな歌声に合わせて、流れるようにリフトやムーヴメントを繋いでいく作品。どこをどう観ても綺麗なものばかりあって、流れ自体も美しくて、溜息が出てくるような作品でした。

(振付 FD:マルガリータ・ドロビアツコ&ポヴィラス・ヴァナガス)

 

ODhttp://www.youtube.com/watch?v=ZEcj-M0Ydjw&feature=player_detailpage

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=v_PcSAfnUcA&feature=player_detailpage

 

 

03-04シーズン

OD「ブギウギ/ブルース」、FD「マーリン」、EX「果てなき夜」

 ODがアップテンポな課題だったので、最初はかなり心配しましたが、蓋を開ければそんなものは無用でした。ダイナミックなリフトをアクセントに使いつつ、軽快にコミカルに踊り続けるダンスですが、やはり細かい味付けが粋で、身のこなしも洗練されているのは、流石にフランス。FDはマキシム・ロドリゲスのオリジナル曲で、ミステリアス且つスローテンポ。ダンスステップがやや少なめで、その点では物足りないのですが、難易度的にはやはり相当なもの。リフトの独創性が増したり、高速トゥイズルが復活したり、ポイントは豪華ですし、彼らはラインが綺麗で技の出入りに隙が無いので、見栄えが良いですね。そんな彼らによく似合う、エレガントな作品でした。

(振付 OD:パスクァーレ・カメレンゴ、FD:ロマン・アグノエル)

 

ODhttps://www.youtube.com/watch?v=PW9k0PlU5JY

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=JB0KMX6yHG8&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=tX5OSJMlFys&feature=player_detailpage

 

 

0405シーズン

OD「イエス・サー/セ・シ・ボン」、FD「フリーダ」、EX「グラディエーター」

 クイックステップとフォックストロットで組んだODは、フランスらしいエスプリの利いた、とってもお洒落で大人の雰囲気のダンス。一転してFDは、抑えた色気とエレガンスが香る、シックなプログラムです。全編これ見所のつるべ打ち、という構成なのに、すべてが澱みなく流れていって、心憎いことこの上ない。思えば彼らの演技は、五輪のシーズンから徐々に「静けさ」を増していって、ここで「静寂の底」に達したのかもしれませんね。明鏡止水という言葉さえ似合ってしまいそうな静謐さ。でも、難易度だけなら世界チャンピオンをも上回ろうという豪華さ。このコントラストが堪りません。EXでは、ホールドを組む代わりにお互いの手を紐で縛っているんですが、そのお蔭で遠心力を自由自在に使った、従来のアイスダンスではありえなかった技(男女逆のデススパイラル、紐で女性を吊り下げるリフト等)が堪能出来ます。そのほかにも、腕ではなく紐を引っ張ることで可能になるポジションチェンジとか。小道具にはこういう使い方もある、というアイデア賞ものの名作です。

(振付:パスクァーレ・カメレンゴ)

 

ODhttp://www.youtube.com/watch?v=h35MiQXPF1U&feature=player_detailpage

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=nJ_6KeAHJ8I&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=NHETcC2FENY&feature=player_detailpage

 

 

0506シーズン

OD「パラポンゴ/ハヴァナ」」、FD「ヴェニスの謝肉祭」、EXDiego, libre dans sa tete

 ODはマンボとルンバですが、ラテンというよりアマゾンのジャングルに突入してしまったような怪しげな雰囲気で、振付けたカメレンゴの現役時代を彷彿とさせます。FDは「フリーダ」の延長線ながら、前作を上回る傑作でした。ローテーショナルリフトを使わず、すべてをカーブの上に載せて、素晴らしいフロー&グライドで見せてくれる。その雰囲気は、この上なくエレガントで、デカダンス。間違いなく、黄昏時の闇に浮かぶ類の魔性を秘めています。ヴェネツィアのカーニヴァルと言えば、華やかな衣装や仮面が見ものですが、仮面はどことなく魔物にも思えるし、その両眼に空いた穴には、恐ろしく深い闇がたたえられていますよね。その雰囲気です。ただ優雅なだけでなく、毒も魔も秘めた、暗色の輝きを持つプログラム。顔の前で手袋を組み合わせると仮面になる、というアイデアも秀逸でした。EXはジョニー・アリデイの楽曲から。リフトはもとよりステップもトゥイズルもたくさん入って、雰囲気だけでなく、技術的にも豪華。このプログラムの中のイザベルはかつて無かったほど美しく、劇的な演技に彩りを添えていました。

(振付:パスクァーレ・カメレンゴ)

 

ODhttp://www.youtube.com/watch?v=fJ1OUK4Dve8&feature=player_detailpage

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=krEW4c_OJ_I&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=LOTwTC8_k-w&feature=player_detailpage

 

 

0607シーズン

OD「ヴォルベール」、FD「ボニー&クライド」、EX「愛の翳り」

 ODは、抑制の利いた大人のタンゴ。色気(妖艶さというニュアンスではなくて)という面では群を抜いていました。彼らのタンゴは、パッションというよりもムード重視の、夜のダンス。それと彼らは毎回、ODはミッドラインが素晴らしいと思うのですが、個人的にこの作品の、細部まで行き届いた演技が1番好きです。FDは今までとはがらりとイメージを変えたロマンノワールですが、シンプルさ故に、技術の質の良さと独創性が際立ちます。中でもレベル4にカウントされたストレートラインステップや序盤のリフトは絶品でした。そしてEXでは、競技の中でかなぐり捨てていたエレガントさを存分に堪能出来る、艶やかな演技を披露。FDでアイデアの粋を凝らしただけあって、EXはオーソドックスに、心に沁みる演技を見せてくれます。

 

ODhttp://www.youtube.com/watch?v=kObCS6LC9Z0&feature=player_detailpage

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=Kjq-N4WRsZI&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=_9Kn9g51zOs&feature=player_detailpage

 

 

0708シーズン

OD「レプリーク」、FD「ピアノ・レッスン」

 民俗舞踊をテーマにしたODでは、アルプス民謡のガヴォットを選択。肩の力を抜いて観られる楽しい作品ですが、古典芸能系のお芝居を観ているような、今までとは別の趣で洗練された作品でもあります。陽気で軽くスケベな青年と勝気な娘のじゃれ合い、という設定なのかな。2人の手首にはリボンが結ばれていて、「グラディエーター」の応用で、ハンド・トゥ・ハンドでは不可能なポジションチェンジをするなど、アイデアが光ります。でも、何もしていなくても、ただリボンが風に翻るだけでも、演出効果として十分に華やかでした。

FDはいかにも彼ららしい、静謐でシックな作品。流れが美しくて、最初のローテーショナルリフトなどは溜息ものです。そして、その流れをどんどん加速させて、ドラマを盛り上げていく。振付には手話が取り入れられていて、「私は誰とも話すことが出来ず悲しい」から「でも今は貴方に伝えたいことがある、愛しています」へ続くんだそうですが、そんなことを知らなくても、確かに2人の間で、まさしく言葉でない何かが交わされ、繋がり合いながら深まっていく様子が見て取れました。衣装も含めてかつてのような豪華さは無いんだけど、それ以上に吸引力のある、素晴らしい仕上がりでした。コンテンポラリーな振付で、テーマも難解との声もあったそうですが、モダンダンスの振付師が手がけただけあって、フィギュアとは何の関係も無いところ(例えば指先の細かなニュアンス)まで精緻に組み立てられ、心が込められた、隅々まで質の高い作品だったと思います。

(振付 OD:ディアナ・リバ、FD:ヨルマ・ウォティネン)

 

ODhttp://www.youtube.com/watch?v=hBr5m1_qHJQ&feature=player_detailpage

FDhttps://www.youtube.com/watch?v=3siEAJZ-IKM

 

 

0809シーズン

OD「リンディホップ/ブルース」、FD「虚空のスキャット」、EXMy Immortal

 ODの見所は、見事な雰囲気作りを見せるイザベルと、圧倒的な器用さを披露するオリヴィエ。これだけ体格差のあるカップルで、大柄なオリヴィエが驚くほどの小回りを利かせてくれます。凝りまくったポジションのトゥイズルや、鮮やかなポジションチェンジのリフト等、目を奪う美味しい技がたくさん。FDは彼らの持つフロー&グライドを最大限に活かしてピンク・フロイドの楽曲に挑戦、シックでエレガントな持ち味にモダンな味わいを添えています。彼らのすることはすべて、どんなに難しいこともさり気ないけれど、これはその極みでしょう。ハイドロブレーディングから入るカーブリフトや目まぐるしいポジションチェンジのローテーショナルリフト等、やっていることは相当な難易度であり斬新さなのに、決してそこだけで浮き立たない。そういったものも、技術的には1点にもならない凝ったフィニッシュも、同じように心を込められて、同じように流れの中で演じられる。素晴らしい技術であり芸術性です。EXは彼らの得意技と化した感のある、布を使ったプログラム。布の使い方も進化していて、例えばリフトの時に模様になるように体に巻きつけるなど、絵としてとても美しい。紅と黒、2種類を使っていますが、それぞれが風にはためく様子まで、すっかり音楽に融けていました。終盤、足首に結んだ紅い布を持ってのミッドラインステップをするところが、最も美しいシーンですね。彼らにしか出来ないことを、競技とはまた違った演出方法で見せる、素晴らしいEXナンバーです。

(振付 FD:マリー=フランス・デュブレイユ)

 

ODhttp://www.youtube.com/watch?v=NX20x7RRXHc&feature=player_detailpage

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=khv7kdR3JHg&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=1lf8mmnVM58&feature=player_detailpage

 

 

0910シーズン

OD「フレンチ・カンカン」、FD「見果てぬ夢」

 イザベルの出産のために、五輪だけになってしまったシーズン。ODは、冒頭から既に寸劇仕立てになっていて、カンカン・ダンサーと辻アコーディオン弾きの姿が目に浮かぶよう。そして、正直に言ってしまえば、イザベルの足元がもたつく感は多少ありました(特に終盤の「天国と地獄」)。でも、決して乱さず、丁寧に合わせ、リフトで誤魔化さないでステップに徹した、非常に良心的な作品であるとも言えます。でも何よりも、粋で華やかで「フランスのエスプリ」という言葉そのものの雰囲気を漂わせた作品。そしてFD――凝りに凝ったことをやってきた彼らの中では、最もシンプルな作品かもしれない。でも、穏やかで、幸福感に満ち溢れて、滋味深い、宝物のような作品。ジャック・ブレルの歌声に合わせたダンスは、上質なメルヘンの香りを漂わせています。優しい大人が、愛する我が子の枕辺で、愛情を込めて語る物語のような――そう、このプログラムからは、元世界チャンピオンのアイスダンサーではなくて、ルイのママンであるイザベル、ガブリエルのパパであるオリヴィエを、何よりも強く感じました。

きっと彼らには、何処かで金を、メダルを諦めた瞬間があったんだと思います。でも、それを受け止めて受け入れて、出来る最良を尽くしたからこその、何ものにも替え難い充実が、このシーズンのプログラムには溢れていました。ある意味、世界チャンピオンの時よりもずっと、ファンとして彼らが誇らしかったし、ファンで良かったと思えた。そんなアイスダンサーに出会えたことは、ファンとして最高の幸せです。

(振付 OD:ディアナ・リバ、FD:マリー=フランス・デュブレイユ&パトリス・ローゾン)

 

ODhttps://www.youtube.com/watch?v=kKeHsEgCe74

FDhttps://www.youtube.com/watch?v=m52k_TaFV2g

 

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