エレーナ・ベレズナヤ&アントン・シハルリドゼ(ロシア)

【主な成績】

02ソルトレイクシティ五輪金メダル、9899世界チャンピオン

 

 流麗にして繊細、叙情的――月並みな言葉が続きますが、彼らの演技はこれらの言葉そのもので、何をやっていても、溜息が出るほど美しかった。芸域は広く、コミカルなものも、スタイリッシュなものもありましたが、上記の持ち味ですべてを許容してしまえる、懐の深い表現力を持ったペアだったと思う。それは、技術にせよポジションにせよ、これを持っていれば大丈夫、何にでも使える、という絶対の規範を身につけているから。そして、ペアとしては破格に男性が器用で、演技力に長けていることもポイントだと思う。いずれにしても、史上最も美しいロシア・ペアの1組だったことは間違いないでしょう。

 

 

9798シーズン

SP「白鳥の湖」、FS「黒い瞳」、EX「バルセロナ」

 SPのこの曲を、こういう風に表現したスケーターは、カテゴリ問わずそう多くないのでは。というのは「羽ばたかない」「鳥のふりをしない」という意味。素晴らしくシンプルな振付です。そして素晴らしいスピード感と流れです。それで以って、「情景」という、一番ベタベタなところを滑る。でも、それだけで十分、彼らは音楽になりきっていたんですよね。FSはそのスピード感とシャープさを、より直球でパワーのある曲に乗せて走った。EXでは更に更にギアを入れて、とにかく突っ切った。そういうシーズンだったと思います。まだ結成2年目で、自分たちの芸域がどこなのか、完全に掴んではいなかった気配もあるけれど、それを上回る勢いと、補って余りある完成度は持っていたと思う。それと、走った、と言いますが、それはあくまで印象の話で、無駄なランは当時から殆ど無く、繋ぎのスムーズさは見事でした。

(振付:タマラ・モスカヴィナ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=AydZTd-ZR7w&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=Yo7SMR9YOKg&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=Pfh6Abk2410&feature=player_detailpage

 

 

9899シーズン

SPHappy Valley」、FS「弦楽と声のための協奏曲」、EX「見果てぬ夢」

 彼らのSPには稀有なものが多い気がします。この年のそれは、ヴァネッサ・メイが香港返還記念で作った曲で、言ってしまうと物凄くオリエンタルなんですよ。ヴァイオリンの響きが胡弓に思えてくる、という類の。なんだけど、彼らが滑るとオリエンタルではなくなる。冒頭に若干、印象的な振付もありますが、そこまで特徴的な何かをしているわけでもないのに。そして、その脱オリエンタルの世界が、実にすっきりとしていて観易い。FSは、彼らのスタイルの礎になったであろう、優雅な作品。シンプルですが、昨季までの圧倒的な速さを柔らかく包んで、じっくり魅せるようになっていた。EXも同じですが、これは、たっぷり盛り込まれたデュオスパイラルがいちいち美しくて、個人的に目の保養です。

(振付:タマラ・モスカヴィナ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=-Qzy7VRWwE4&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=loU8JtFllqo&feature=player_detailpage

EXhttps://www.youtube.com/watch?v=wejrWTq6raQ

 

 

9900シーズン

SP「ラデツキー行進曲」、FS「感傷的なワルツ」

 あまりにベタベタすぎるが故に、そして能天気な曲調であるからこそ、ラデツキーをギャグにしないで滑るのは、なかなか大変なこと。でも、それも彼らの手にかかるとすっきり見えてしまうから、面白いというか、不思議と言うか。FSは昨季と同系統の路線ですが、より甘く、タイトルそのままにセンチメンタルな方向へ踏み込んでいたかな。衣装の関係もあって、「弦楽〜」と被っている印象が強く、損をした感があるプログラムではありますが、単体で観ると相変わらずとても綺麗です。

(振付:タマラ・モスカヴィナ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=6Qaz4vGpmyI&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=7L0vYFgPitw&feature=player_detailpage

 

 

0001シーズン

SP「ポーレシカ・ポーレ」、FS「ライムライト」、EX「スムーズ」

 SPは、シンプルながらに力強く、迫力のある演技。彼らはいつも、SPで凝ったことはしていませんが、選曲が面白くてハズレが無く、飽きない。でも、このシーズン特筆すべきは、やはり「ライムライト」でしょうね。2人の持つ、滑りや動き、雰囲気、あらゆる柔らかさを駆使して演じる、ロマンチックでほの甘いラブストーリー。演劇的な振付やコミカルな動きは、時としてスケートから乖離してしまうこともありますが、彼らは実に器用に、見事にこのふたつを融合させたと思う。そして、その蔭には、ペアスケーターとしては破格と言える、アントンの器用さと演技力があったなと。コミカルで可愛らしくて、でもスノッブじゃない上品さもあって、珠玉の逸品と言える作品に仕上がっていたと思います。そしてEXは一転して、カジュアルなラテンナンバーというのも面白かった。

(振付 SP:タマラ・モスカヴィナ、FS:イーゴリ・ボブリン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=x3mFOfy_J-Q&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=fREjqygiwHs&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=hfz_5U9jtVA&feature=player_detailpage

 

 

01-02シーズン

SP「レディ・カリフ」、FS「タイスの瞑想曲」、EXKID

 SPは弦の音をベースに、深いところでいつもピアノの音が流れている、ミステリアスで妖艶な感じの曲。流麗な中にも時折鋭さを印象付ける振付で展開もスピーディでしたが、なおかつ技のすべてをじっくり見せられる構成にしてあるのは、流石。FSは、練習中の事故や怪我などで出遅れたせいもあって、初見の時の印象はとても弱いものでした。前作があまりに秀逸だったこともあり、観続けるのは不安だった。でも、最後まで観通した時、このプログラムがいかに素晴らしいものかを思い知れて、幸せだった。かぼそく儚げだった花が、大輪の百合のように、誇らかに美しく、咲いていた。当時、そんなものを計る採点基準は無かったにも関わらず、技と技の間が最大3歩しか離れていない、素晴らしい密度。優雅でスケール感もあるだけに気づきにくいかもしれませんが、細部の凝れるところはすべて凝った、とも言える精緻さと独創性。それらすべてを包み込む、圧倒的な流麗さの世界。それは、静かな曲だからこそ、かえって胸に迫ったのかもしれません。そしてEXは、もうひとつのチャップリン・ワールド。アクロバット風のリフトなどを入れつつ、やはり何よりもスケートとして美しいのは、彼らならでは。そして、何とも言えず心温まるユーモアと愛らしさを感じる、やはり宝物のような世界でした。

(振付:タマラ・モスカヴィナ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=dAJUcgMZMO4&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=E4S7c9s56A4&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=O6jK5kVhRkA&feature=player_detailpage

 

 

「カリンカ」

 お馴染みのロシア民謡を使ったプログラムで、技としてはオーソドックス。ただ、民俗舞踊色の濃い振付がひたすら可愛らしくて、エレーナの愛らしさとアントンの愛嬌が前面に出ている作品でもあります。明るくてテンポも良いので、エンタテイメントとして秀逸。短いナンバーですが、一気に観られて楽しいです。

 

http://www.youtube.com/watch?v=UvpA_WPetJo&feature=player_detailpage

 

 

If I Could

 彼らには珍しい、ドラマチック系の男性ヴォーカルに乗せた、セクシーな雰囲気の演技。具体的に何をしているわけではない、シンプルな振付ですが、向かい合う2人の空気が濃くて、ムードがあるというか。動きそのものは、実にいつもの彼らなんですが、雰囲気だけが目新しくて魅力的。

 

http://www.youtube.com/watch?v=yUFgrG7uXBo&feature=player_detailpage

 

 

Let me Fall

 ある意味、プロになったペアがやりそうな、典型的プログラムと言えそう。確かにスローとかオーバーヘッドリフトとか、それらしいこともあるんだけど、ダンスリフト風の動きが随分増えていたり、応用のものが多かったというか。ただ、それらを繋いでゆく流れの澱みなさと全体の隙の無さは、アマチュア時代以上ですね。アマチュア時代既に、かなり凄かったにも関わらず。静かで過剰なドラマ性は無い曲ですが、それも彼らにはよく似合っていると思う。

 

http://www.youtube.com/watch?v=hX-MLnVQMzo&feature=player_detailpage

 

 

Colors of the Night

 彼らは基本的に、ペアの技術から大きく外れたことはしないので、EXでも、プロになってからも、比較的オーソドックスな演技をすることが多い。これもそうです。ただ、その時その演技に相応しい彩色が施されていて、それがいつも美しいだけ。そして「夜の色」を纏うこの演技は、技のひとつひとつも素晴らしいけれど、その技からの出口がまた一工夫されていて、実にお見事。すべてが磨きぬかれたクオリティで、流れがあまりにも美しくて。ある意味彼らの演技は常にそうなんですが、曲との相性なのか何なのか、これを観ている時にひときわ強く感じるかな。

inserted by FC2 system