ジェフリー・バトル(カナダ)

【主な成績】

06トリノ五輪銅メダル、08世界チャンピオン、0204四大陸チャンピオン

 

 4回転を跳ばない世界チャンピオン――10年以上に渡って途絶えていた系譜を復活させた選手であり、高難度のジャンプを跳ばなくても、それを補って余りある、非常に多彩な武器を持った選手です。上半身の使い方、特に首と腕のラインが絶品。アイスダンス出身らしい軽やかなステップや、変幻自在のスピンも魅力なら、ムーヴス・イン・ザ・フィールドの名手でもある――でも、それらすべてを自在に使いこなして、どんな難曲をも我が物にする、豊かな音楽表現こそが、最強の持ち味。跳ばなくても、回らなくても美しい、そして、何をしていても自由自在に奏でている。そんな奥深い表現者です。

 

 

0102シーズン

SP「ラストエンペラー」、FS「ジェルソミーナ」、EX「トラブル」

 SPは全体を曲線の動きで丁寧に纏めたプログラム。流れを閉ざさないよう、細部まで気を使った形跡が見られるほか、敢えてスピンではなく、回転系のムーヴメントで締めるフィニッシュも心憎いつくり。FSは、彼の当初のイメージである「爽やか好青年」を決定付けた初期の代表作ですが、何よりも、テンポ良くくるくると変わり続ける全身の表情、それに合わせてリズミカルに繰り出されるエレメンツが、観ていてひたすら気持ち良かった。実はまだまだ、スパイラルのフリーレッグが伸び切っていなかったり、ご愛嬌程度に甘いところは多々ありましたが、あの時彼が持っていた美点をすべて出し尽くせるように、よく創られたプログラムだったと思います。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=eYlPuet6wa0&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=oydJVKyZQFI&feature=player_detailpage

 

 

0203シーズン

SP「陰謀のセオリー」、FS「エルガーのチェロ協奏曲」

 少々胡散臭い音楽に乗って、でもテンポ良くエレメンツが繰り出されるSPと、暗くて深い音楽のFS。爽やか好青年に留まらず、表現の幅を広げていったシーズンです。私が彼のファンになったのは、この「チェロ協奏曲」がきっかけだったのですが、表現面での成長の痕が顕著でした。フリーレッグがすっきりと伸び、ただ綺麗なだけだった腕のラインが、情念を描き出すようになった。そして、巧みなエッジワークを駆使しての、多彩なムーヴス・イン・ザ・フィールドと、そこから流れるようにジャンプに繋げていく構成は、内心ずっと見たかったものであり、小躍りしてしまいました。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=vqawddIXws8&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=NHpg14NQaCU&feature=player_detailpage

 

 

0304シーズン

SP「テイク・ファイブ」、FS「サムソンとデリラ」

 SPはキレのある滑りでどんどんエレメントを繋いでゆく彼らしい構成ですが、大人の雰囲気に切り替えようと、一生懸命努力していた雰囲気アリ。まだ完全にそうなってはいなかったです。FSは「サムソン」というにはあまりにも細いながら、「何かに魅入られた者」としての表現は秀逸でした。1人で滑っているにも関わらず、デリラの存在がはっきり分るんですよ。シリアスな曲調に合わせて天を仰ぐような序盤、全身をくまなく使って奏でる、中盤のハイライト「貴方の声に心が開く」、最後は破滅してひれ伏す、という構成。いつもそこには「魔性の美しいもの」があって、それにどう向かい合うか、ということを、彼は表現し続けていたと思う。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=y_wqTP5KsT8&feature=player_detailpage

 

 

0506シーズン

SP「鐘」、FS「ナコイガッツィ」、EX「アヴェ・マリア」

 どちらも非常に「静か」なプログラムです。「暗い」と言うことも出来る。SPにはガラス質の繊細さがあって、壊れそうな危うさとそれゆえの美しさを、この上なくシャープな滑りで表現していた。音量が小さく、静寂の中にエッジが氷を削る澄み切った音がかすかに聴こえる…という、観ているだけで神経が研ぎ澄まされるようなプログラム。

 一方FSでは、彼の表現の奥深さを堪能しました。とてもシリアスな音楽で、暗さも深さも、ついでに難解さもSP以上。このプログラムで印象的なのは、「止まる」動き、下向きの動き、それと首から上、特に視線の使い方。どれもあまりフィギュアの世界でクローズアップされることは無いけれど、彼はそれをとても効果的に使っていたと思います。端的に言うと、上半身をだらりと垂れさせたイーグルがそう。滑りはあくまで澱みなく流れ続けているのに、そこでふと動きを止めて、観る者の視線を釘付けにする。何故か不安感を掻き立てられて、目が離せなくなる。そんな緊張感に満ちたプログラムでした。

 EXは、彼がしばらく愛用していたものですが、現代風アレンジのシューベルト。彼ならもっと素直に、綺麗に見せても美しいのになぁ…と思うのは、単に趣味です。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=lSbTaxPgexA&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=znMrXtbyGR8&feature=player_detailpage

 

 

0506シーズン

SPSing Sing Sing」、FS「グレン・グールドへのオマージュ」「サムソンとデリラ」

 タイトルを聞いて連想するメロディを一切使わなかったSPは、とても粋でお洒落な作品。雰囲気で言えば宵の口、決して能天気ではないんだけど、観ていて心が軽くなるような楽しいプログラムです。音のひとつひとつが丁寧に拾い上げられて、その瞬間にステップに変わる。すべてが踊りだす。観ているこっちまで踊りたくなってしまう。そんな魅力的なプログラムです。

 FSは、没になった最初の方が、グレン・グールドのピアノ曲をメドレーにしたもので、ワーグナーやスクリャービン、シェーンベルクなど、フィギュアの世界ではまず聞かない作曲家のオンパレード。確かに難解ではあるけれど、同時に耽美でもある曲の構成。その中で、リンクを端から端まで突っ切るイナ・バウアーのラインに酔っても良し、ピアノの一音一音を拾いきる細やかなステップに見入って良し、静けさの底に沈んでもまた良し。ジェフリーの美点をすべて込めたようなつくりでした。

 ただ、流石に難解すぎて、後に「サムソンとデリラ」のブラッシュアップ版にFSを戻しています。こちらは、特に後半の表現に磨きがかかっていて、元の作品よりも相当、充実したプログラムになっていると思う。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=wi2m5hfzY2A&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=vLFa8-Qf25Q&feature=player_detailpage(グレン・グールド)

  http://www.youtube.com/watch?v=Y6cqiR9oLi8&feature=player_detailpage(サムソンとデリラ)

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=lpGB35cq-Os&feature=player_detailpage

 

 

0607シーズン

SP「アディオス・ノニーノ」、FS「アララトの聖母」

 SPは、タンゴではないかもしれないけれど、この音楽の表現としては、凄く納得感がある。曲の持つ暗さや静けさ、妖艶さを見事に掬い上げていました。シーズン毎に斬新な動きを見せてくれるわけではないんだけど、どの音楽にも見事になりきってしまうから、一向に飽きが来ないのが、彼の表現の奥深さですね。何よりも、軒並みレベル4のエレメンツの何一つ、これ見よがしに難しくない。寧ろそれ自体が音楽を奏でてきそうに軽やかです。

 FSは、中近東風の音楽にコンテンポラリーな動きで、彼の作品の中では「ナコイガッツィ」と双璧を張る難解さ。でも、彼の動きはすべてが洗練されていて綺麗なので、抵抗無くすっきりと観られてしまいます。なんだけど、別に逃げているわけではなくて、終った後にちゃんと曲の印象も頭の中に残っているんですよ。どんな難しいものでも、彼の手にかかると平易に噛み砕かれて、わかり易く伝わってしまうというか。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

 

0708シーズン

SP「道化師」「アディオス・ノニーノ」、FS「アララトの聖母」

 結局、最終的にはSPFSともに前のシーズンと同じものに戻しています。確かに、SPだった時の「道化師」は、プログラムとして散漫な印象で、ジェフリーにしては珍しく「外れた」作品だなと思っていたので、正しい選択だったと思う。でも、EXとして生まれ変わった時には、見違えるように深くて広がりのある表現を見せてくれました。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=fsphwWu1B2s&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=j08xZ013XAs&feature=player_detailpage

 

 

Canned Heat

 プロ転向後第一作。思えばあれだけ軽やかに動けるスケーターなのに、ダンス系のナンバーは観たことがありませんでした。腕や指の処理で細かいアクセントを利かせつつ、粋にクレイジーに踊りまくるナンバー。絶対、得意な筈なのに、何で今まで見せてくれなかったんだよう、なとど、美味しい呟きを発してしまいたくなります。

 

http://www.youtube.com/watch?v=m27VOAC7ZWE&feature=player_detailpage

 

 

24千万の瞳」

 ランビエールとのコラボレーション。選曲は絶対、スポンサー関係にファンが居たんだろう、っていう感じですが、これが意外とハマった。無難な範囲で呼吸を合わせつつ、ノリ良く、歯切れ良く、技の質も良く、ベタベタに華やかに、サービス精神全開で滑りきった結果、何気にとてもクールでシャープなナンバーになるという、素敵なマジックが起こりました。

 

http://www.youtube.com/watch?v=9zv_-n2iQIw&feature=player_detailpage

 

 

「エクローグ」

 1度は競技用に創ったというだけあって、非常に密度の濃い作品です。それでいながら、たっぷりと間を取って非常に美味しく見せるという心配りもしているし、彼が今まで見せたことが無いタイプのスピンも入っているし、色々なところが色々な風に心憎い。静かで吸い込まれるような音楽を奏でさせたら、ジェフリーに並ぶ者はそう無いですしね。

 

http://www.youtube.com/watch?v=sMgoBjmzl0U&feature=player_detailpage

 

 

Sympathy for the Devil

 アマチュア時代、これと言って面白いEXを滑らなかった感があるジェフリーですが、プロ転向後の作品は良作が揃っている。ストーンズのナンバーで、心持ちアラビアン・テイストな気がしますが、見事にハジけた遊び心たっぷりの演技を披露。ここまで露骨にハイテンションなジェフリーは初めて観ましたし、突き抜けてしまって面白かった。

 

http://www.youtube.com/watch?v=rMq67-I5Dqo&feature=player_detailpage

 

 

Harder Better Faster Stronger

 ジェフリーの持ち味である、自由自在な動きを存分に使った作品です。テクノポップの音楽に乗せて、縦横無尽に氷上を走り回り、踊りまくる、その爽快感といったらありません。しかも、当然ジェフリーのことなので、ただのランは殆ど無く、ステップやスケーティング動作がちりばめられていて、足元だけ見ていても楽しいです。

 

http://www.youtube.com/watch?v=HesaBrTOLpE&feature=player_detailpage

 

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