カート・ブラウニング(カナダ)

【主な成績】

92アルベールビル五輪6位、899193世界チャンピオン

 

 幾つになっても、切れ味鋭い身のこなしと、幅広い表現の世界を兼ね備えた、純正のエンターテナーです。一発芸を狙うことも出来るけど、芸の限りを尽くすことも知っている。高くて美しいジャンプにディレイをかけて、殊更豪快に着氷することもあれば、まったくジャンプの無いプログラムを踊りきることもする。様々な「格好良さ」と、それを崩す「可笑しさ」を兼ね備えたスケーターです。

 

 

8788シーズン

FS「ビリー・ザ・キッド」

 今となっては隔世の感を覚えてしまう。だって、あのブラウニングが、走って跳ぶだけの、単調極まりないプログラムを滑ってたんですよ、って。唯一面影があるとすれば、確かにこの翌年には4回転跳べちゃうな、っていう高いジャンプでしょうか。ともかく人間、変われば変わるものです。

 

http://www.youtube.com/watch?v=kxpCu8wRv14&feature=player_detailpage

 

 

9192シーズン

FS「火の鳥」

 序盤からとにかく目まぐるしい展開で、エレメンツや振付が、息つく暇も無く繰り出されます。でも、それでいながら忙しい印象は無くて、ただ圧倒される。ただ矢継ぎ早なだけでもなくて、上半身を忙しく動かしながら、同時に足元は細かいステップを刻んでいたりするし、動きも一種類だけではなくて、炎が揺らめくような曲線の動きと、合間に鋭く切り込んでくるシャープな動きを取り混ぜている。足元も同じです。これだけやって、よく混乱しないなと、観ている方が呆れてしまう。恐らく、凄い消耗度でしょう。

 そして、これでもかと詰め込んだものの中に、なおかつタイミングを捉えて心を揺さぶる、さり気ない音の使い方がある。大して特別なことをしている時ではないんですよ。ふっとした目つきだったり、一瞬の手の表情だったり…でも、目を奪われる。序盤を駆け抜けて、その余韻で味わわせる中盤、そして終盤は、火の鳥が天を舞うようなダイナミックさでのフィニッシュ…あらゆる意味で、ニクイ。

 

http://www.youtube.com/watch?v=V_GCcnO0u6s&feature=player_detailpage

 

 

9293シーズン

FS「カサブランカ」、EXAs Time Goes By

 フィギュアスケートをエンタテイメントに高めた傑作、との評価も高い「カサブランカ」ですが、何が凄いって、それはきっと、フィギュアとしては何でもない部分(中盤のスローパート、エッジの踵でちょこちょこっと歩く部分とか)が最もチャーミングであることと、それが決して、全体の中から浮いていないことでしょうね。中盤以降、ちょっとしたことに一々「うわぁ、いいなぁ、粋だなぁ」と溜息をつくことが多いのですが、それを全部、スケートの流れの中でさりげなくこなしていく。その組み入れ方が、また粋である。

 そして、そのエッセンスだけを凝縮した「カサブランカ」の主題歌「As Time Goes By」は、唯一無二の伊達と粋を凝らしていると思う。動きは「カサブランカ」の中盤そのままなんですけど、エレメンツに煩わされないで済むだけ、やはり表現に集中出来るから。

 

FShttp://www.youtube.com/watch?v=2SxtqOEi6og&feature=player_detailpage

 

 

「エレヴェイション」

 明るくて楽しくてノリが良くて、客席が手を叩きながら観られるような…そういう、プロならひとつは持っていなくてはいけないタイプのプログラムです。それでいながら、技の部分がとてもタイトに引き締まっていて間の抜けた印象、雰囲気で誤魔化しているきらいが微塵も無い。とても充実したプログラムだと思います。

 

http://www.youtube.com/watch?v=MMs1naJUgSY&feature=player_detailpage

 

 

Play That Funky Music

 ナショナル・バレエ・オブ・カナダのバレエ・マスター、ロベルト・カンパネラ振付の、とてもダンサブルなナンバー。印象としては「エレヴェイション」を思いっきり踊った感じになりますが、バランスという意味では、彼のプロとしてのプログラムの中では最高の逸品では。ただ、この後に来る「ナイヤ」の印象があまりにも強すぎて、「あれに辿り着く前のワンステップ」に見えてしまうのが、惜しいと言えば惜しいのかな…

 

http://www.youtube.com/watch?v=Rw6m10kfq80&feature=player_detailpage

 

 

「ナイヤ」

 というわけで、カンパネラとのコラボレーション第2弾。これは完全な「氷の上のダンス」でしょう。ただステップが、スケート靴を履いた状態のものだ、というだけ。というのは、ジャンプもスピンも無い、ダンスとスケーティングだけで創られた作品だからです。それで4分そこそこの時間を濃密に満たしてしまう、ブラウニングの表現力と技術力には、恐れ入るしかない。上半身に物凄い力とキレがあって、でも同時に足元では、たゆまずステップを刻み続けている。これを「ダンス」と呼ばずして何と言おうという感じですね。全体に漲っている静かな力にも圧倒されました。

 忘れられないのは、フィニッシュのストレートラインステップ。ゆっくりと消えていく音楽の中で、ブラウニングが手を打ち鳴らす。客席がそれに合わせて拍手を始めると、彼はその拍手に乗ってリンクをステップで突っ切り、いつしかそのステップで拍手を操るようになる。無音だった筈の空間を満たす、異様な緊張感と熱狂。すべてが終って、弾ける何か爆発的なもの。フィギュアスケートの可能性と言ったらいいのか、まったく新しいものなのかは判然としないけれど、身体表現として類を見ない、素晴らしいものだったと思います。

 

http://www.youtube.com/watch?v=1zOoV9QsjRQ&feature=player_detailpage

 

 

「スーパーカリフラディアリエクスピアリドーシャス」

 子供の頃に、誰でも1度は歌ったことのある懐かしい童謡に合わせたナンバーですが、これでもかというほど小道具が出てきて、さりげなくかなり五月蝿いことになっています。個人的にそういう表現は好きではないのですが、ここまでポンポン出てくると、唖然として、まあいいや、という気になる。そんな突き抜けたというか、ぶち抜けたところのあるプログラム。

 

 

Be a Crown

 はっきり言って、一発ネタ。余人がこれをやったら寒いし、スケートでも何でもない、と切り捨てることも出来ると思う。それをさらっとユーモアで片付けられるのが、彼の力量だと思います。

 

 

「グリーン・クリスマス」

 あらゆる意味で、何ってことは無い作品。ただ、彼の作品は、方向性はどうあれ非常に創りこんだものが多いので、たまにこういうシンプルなものがポロッと零れると、逆に凄くインパクト。そして、落ち着いた雰囲気が、妙に大人っぽくて格好良いプログラムでもあります。

 

 

「ザッツ・エンターテイメント」

 これほど彼に相応しいタイトルは無いわ…と思わず関心。そして、今時の採点では大した点にはならないかもしれないけれど、この上なく軽やかで緻密なステップシークエンスに脱帽。こんなにさり気ない粋さを演出出来るのは、やはり彼ならではですよ。そしてこれがエンタテイメントだ、と思う。冗談抜きで。

 

 

Snake Eyes

 小塚君とのコラボレーションで、基本的にはミラーリングのステップです。圧倒されるのは、その足元の冴え。現役の中ではスケーティングに定評がある小塚君が、思わず見劣りするほどの、至芸です。身のこなしのちょっとしたニュアンスまで含めて、すべてがさりげなくイナセで、観ていて美味しい作品です。

 

http://www.youtube.com/watch?v=6Yt9wuQJ-RI&feature=player_detailpage

 

 

Im Yours

 カートが持っている、豊かで上質のユーモアが溢れている作品です。殆どがステップとマイムで出来ていて、音楽も穏やかなものなので、ある意味地味です。そして、それをじっくりと堪能させてくれる辺りが、カートの名人芸です。というか、ステップだけ見ていても、素晴らしく細やかで緻密なものを、あまりにさりげなくやっているので、気が付いてびっくりします。そして――このプログラム、ジャケット、ベスト、ブラウスと進行に従って脱いでいくんですが、11枚に「I’m Yours」のメッセージが入っているんですよ。それを客席に見せるんですが、こんなしょうもないことをやって、とっても素敵に見えてしまうのは、やはりもう、カートだから、なんですよね。

 

http://www.youtube.com/watch?v=aMMEaiMcsQU&feature=player_detailpage

 

 

「パーティ・イン・ザ・パーク」

 トッド、サーシャ・コーエンとのグループナンバーで、ピエロを演じます。全身の表情がとても豊かで、パントマイムも様になる、上質の無言劇ですが、カートが醸し出す笑いは、質が優しいなとしみじみしてしまいます。あと、バタバタ動くステップが、やはり流石の名人芸です。

 

http://www.youtube.com/watch?v=_PYbzdvuH1I&feature=player_detailpage

 

 

SOIで披露した、スコット・ハミルトン、カート・ブラウニングとのグループナンバー。3人のいずれもがそうなんですが、エッジワークの至芸を見せてくれます。滑るって、こんなにシンプルで、奥深くて、面白い。

http://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=QCapfwISfAU

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