ブライアン・ジュベール(フランス)

【主な成績】

06トリノ五輪6位、07世界チャンピオン、040709欧州チャンピオン

 

 滑りから、素晴らしい「闘志」を感じさせるスケーターです。熱血直情、力強くて漢っぽくて…というところからスタートしましたが、いつの間にか重厚で深い表現も見せるようになった。そして、採点が変わろうが評価が微妙だろうが、「これが俺」と言い切って大技に挑み続ける姿勢は爽快です。時にはそれが単なる無謀に終ったこともあれば、粗さが際立ってしまった時期もありましたが、そこもちゃんと分って、こつこつと努力を続け、強さを体現し続けてきた。そんな意味でも、観続けることが嬉しいスケーターでした。

 

 

0102シーズン

SP「メキシカン・ハット」、FS「ザ・ミッション」

 まったく無名だったにも関わらず、シニアデビュー戦の欧州選手権で初出場3位。ちょうど数年来、活きのいい若手を見かけなかった時期でもあり、新顔のくせに4回転を跳んでいた彼の印象は、とても強かったです。プログラム的に言うと、とても元気で少年ぽくて、無難というか、面白くないと言うか…という感じではありましたが。

 

FShttp://www.youtube.com/watch?v=TaAm_jMEWnA&feature=player_detailpage

 

 

0203シーズン

SP「タイム」、FS「アンタッチャブル」

 FSは引き続き無難系ですが、SPが文句無しに面白かった。確かに、当時師事していたヤグディンをそのままコピーしたような動きもあれば、それをやったから何なんだ、と言うような意味の無いステップがたくさんあるのも確か。だから、競技用として大いに難はある。でも、「俺はここに居るぞ、こっちを観ろ!」というアピールは文句無しに強烈だったし、彼のデジタルでメタリックな部分を最初に強く打ち出したプログラムとしも、ある程度評価していいのではないかと。

(振付:ニコライ・モロゾフ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=j0-uiWZiHQw&feature=player_detailpage

 

 

0304シーズン

SP「タイム」、FS「マトリックス」

 FSは、この後しばらく彼の代表作になるもの。柔軟性に欠ける動きを補って余りある、カンフー+エレキという表現が、絶妙にハマった。重苦しい音楽も、重量感のあるジャンプには合っていましたし。動きの細かい味付けはヤグディン化の一途を辿りつつ、成績は鰻上りだった時期で、すべてにおいて勢いがありました。ある意味、だから、ヤグディンぽくても流せていた面はあると思います。

(振付:ニコライ・モロゾフ)

 

FShttp://www.youtube.com/watch?v=0PXy-qmNnic&feature=player_detailpage

 

 

0405シーズン

SP「ブルーマン」、FS1492コロンブス Conquest of Paradise」、EXRise

 そしてヤグディン化の限界を見たシーズン。特にFSは、最初に観た時、呆れたほどでした。それは流石に問題になったようで、シーズンを通してヤグディン臭を抜いていった結果、プログラム自体も骨抜きの没個性なものになってしまった印象があります。SPについては、ヤグディンぽいなりに、彼のやんちゃで熱血な部分も出ていたし、せわしなく動きまくる振付も新しくて、そこそこ観られたのですが。このシーズンの収穫は、他の何でもなくて、EXのあの音楽に出会えたことかもしれません。結果的に、彼と最も長い時間を過ごすことになるのは、このテクノポップでしたから。

(振付:タチアナ・タラソワ、アレクセイ・ヤグディン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=ce7imSHFtoM&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=40U8OLbnk-0&feature=player_detailpage

 

 

0506シーズン

SP007 ダイ・アナザー・デイ」、FSLORD of The Dance」「マトリックス」、EXLe Roi Soleil」「エアロダイナミック」

 そしてヤグディンから独り立ちしたシーズン。SPではトレードマークだったヤグディン風ステップを封印し、格闘技の動きを取り入れたエンタテイメント性の高いものを用意。彼本来のパワーに似合う、力強い作品に仕上げました。その他、本当にヤグディンとの師弟関係を解消したり、ルシンダ・ルーに師事してスピンを見違えるほど強化したり、EXでパッション系の女性ヴォーカルに挑戦したりと、苦闘の跡がしのばれます。FSについては、脱ヤグディンにこだわるあまり、没個性化してしまった印象が強いですが。

 最後の最後、彼が輝きを取り戻したのは、「マトリックス」に還った瞬間だったんでしょうね。同じプログラムが、見違えるほど鋭くなったのは、苦労して積み重ねたディテールが悉くハマッていったから。まだ多少強引なところもありましたが、それはそれで彼らしくも見えましたし。そしてEXの「エアロダイナミック」では、それはもう笑ってしまうほどヤグディン風な動きを、存分に彼らしく滑りこなしていました。

(振付:ニコライ・モロゾフ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=_jlxKFaALtw&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=LocLeUTKYRk&feature=player_detailpageLORD of The Dance

  http://www.youtube.com/watch?v=ZL9YChZdoMA&feature=player_detailpage(マトリックス)

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=ROgQ7hhE1e8&feature=player_detailpage(Le Roi Soleil

 

 

 

 

0607シーズン

SP007 ダイ・アナザー・デイ」、FS「アポカリプティカ・プレイズ・メタリカ/ロミオとジュリエット」、EXDon’t give up

 そして彼が、彼にしか出来ない境地に辿り着いたのはこのシーズンでしょう。ジュベールというスケーターを完成させたのは、長年コンビを組んできたモロゾフではなくて、カート・ブラウニングが振付けたこのFSだったと思います。動きだけをとってみれば、決して素晴らしいものばかりではない、音楽はツギハギだし、全編を貫くテーマやストーリーがあるわけでもない。ただ、ジュベールを活かせる動き、彼を最大限に引き立てる強くて鋭い動きだけを、厳選して連ねてある。どこを切っても彼そのもので、一挙手一投足がアピールする。

そして彼は、そのプログラムの中で「勝つのは俺だ、どうだわかったか、寧ろ参ったか!」と言うくらい、攻めに攻めた。手がつけられないくらい、絶好調と言うのも莫迦莫迦しいシーズンでした。そして、数年間の苦闘とこの派手な打ち上げがあったからこそ、シンプルなEXが非常に沁みました。狙いすぎ、とも思えるけど、それをハメてしまえるのが、一流の証ではないかと。過去の作品も何度か術っていましたが、もうヤグディン臭のカケラもなく、天衣無縫に氷の上で遊んでいるように見えましたね。

(振付:カート・ブラウニング)

 

FShttp://www.youtube.com/watch?v=_Sgi_M7XFsQ&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=97tJkAwwOwc&feature=player_detailpage

 

 

0708シーズン

SPAll for you」、FS「アポカリプティカ・プレイズ・メタリカ/ロミオとジュリエット」、EXCrock

 進むべき道を見出したら、後は強さを積み重ねていくだけ、なのかな。女性ヴォーカルをフィーチャーしたSPは、これまで彼には希薄だった「フランス人スケーター=個性派」というイメージを印象付ける、尖鋭的なムードの作品。FSは据え置きでしたが、表現がまた深くなって、チャンピオンらしい風格も出ました。あと、さり気なく新境地と言えるのが、カジュアル系のEXなのかなー、という印象も。

(振付:カート・ブラウニング)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=cLfIpdpLncU&feature=player_detailpage

 

 

0809シーズン

SPRISE」、FS「ラスト・オブ・モヒカン」「マトリックス・レヴォリューションズ/レイクエム・フォー・ドリーム」、EX「ハレルヤ」

 SPは、長年愛用していたEXをブラッシュアップしたものですが、流石に馴染んでいるだけあって、異様なほど似合った。にも関わらず、密度が濃くて目新しい、素晴らしい競技用作品に生まれ変わってもいたんですよ。彼らしいパワーもダイナミズムもあったけど、何よりも、クールでセクシーで躍動感溢れる「踊るジュベール」がぎっしり詰まっていた。プラトフの手になるステップシークエンスは圧巻の多彩さで、エンタテイメントとしても存分に楽しめた。

一つ目のFSは、やはりプラトフの手になるせいでしょう、見るからにステップが難しそうで、滑りにくそうでもあった。だから没になったんでしょうが、ドラマティックで勇壮な感じはよく似合っていたので、残念でもあります。二つ目は「メタリカ」と同じ、動きのコラージュ。でも、あの時よりも更に起承転結に乏しくて、音楽はシリアス、キャッチーさも無いという、かなり厳しいプログラムでした。滑る者のすべてが出てしまうと言えば格好良いけれど、その日その時の出来がすべてで、失敗したら目も当てられない、という面が、間違いなくあった。

EXは、シンプルな音楽でシンプルな動きをじっくりと、という路線。SPの異様なほどのノリと、FSの緊張感の後で、弛緩剤としてちょうど良かったのかな。

(振付:エフゲニー・プラトフ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=xtpaPXZeJv8&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=scpnWW77b7E&feature=player_detailpage(ラスト・オブ・モヒカン)

  http://www.youtube.com/watch?v=vnq4hj5kyZ0&feature=player_detailpage (マトリックス・レヴォリューションズ/レクイエム・フォー・ドリーム)

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=Whvn86WtDCg&feature=player_detailpage

 

 

0910シーズン

SPRISE」、FSAncient Land」、EX「インフィニティ」

 勝負のシーズンの勝負のFSに彼が持ってきたのは、何とヤグディンの「Overcome」と同じ曲。でも、最早言うまでも無く、彼は彼、でした。氷の上に繰り広げられたのは飽くまでも「Ancient Land」、重厚で勇壮で、プリミティヴな力を感じさせる世界。振付師は違いますが、ある意味「ラスト・オブ・モヒカン」で出来なかったことをやり直しているのかも。相変わらず起承転結はありませんが、動きをコラージュするというよりも、ストレートに彼の持っている強さを描き出していくようなプログラムです。それでいて、各所にすこしずつ、アクの強い動きを織り交ぜて、絶妙にアクセントを効かせている。だから、重々しい調べが冗長にならず、ストーリーは無くても飽きのこない430秒になるんでしょうね。

 EXは、ちょっとしたファンサービスのようなプログラム。目新しいことは特に何もありませんが、パワーやセクシーさ、彼独特の癖のある細かいステップなど、ファンなら観たいと思わせるものをバランス良く配置した、一粒で何度でも美味しい作品だと思います。

(振付 FS:マキシム・スタヴィスキー)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=rrVAED3rnG0&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=gM6irdBVEbc&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=d7CJdrn-EOM&feature=player_detailpage

 

 

10-11シーズン

SP「レジェンド・オブ・メキシコ」、FS「第九交響曲」

 SPは、今までのイメージをがらりと変えて、シャープなフラメンコ。今までのブライアンに無かったアイデアがたくさん盛り込まれた、野心作と言えるでしょう。それはある意味、ゴージャスなイメージのFSにも言えることです。とりあえずブライアンがクラシックを滑ったのを初めて観ました。ただ…似合っているかどうかは微妙だとは思う。

(振付 SP:アントニオ・ナハロ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=fHNNVMcvvfw&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=k0pi1Uew5NA&feature=player_detailpage

 

 

1112シーズン

SPGenesis/エアロダイナミック」、FS「マトリックス」、EXAn freij de an neo era

 何の新しいものも無い、と言うことは簡単ですよ。新作のSPは重厚でメタリック調、FSは多少のブラッシュアップはされていますが、世界選手権では3度目。でも、かつてソルトレイクシティでエルヴィス・ストイコがしたように、土壇場で逆転を狙う時に、自分が最も輝いていた時のものを持ってくるという戦術は、ありだと思う。ただしそれは、最高の輝きを取り戻せる時だけです。そしてブライアンは取り戻しましたね。随分心配し、気弱な発言に怒りもしたけれど、最後まで闘い抜いた。最後には、細かいところまで充実した、見事な滑りを見せてくれました。特にスピン。一度上達し、その後衰えていたエレメントなだけに感慨深かったです。ある意味、四回転よりジンときた。EXは、彼が意外によく使っている女性ヴォーカル曲。穏やかでしっとりした音楽に合わせて、万感の想いを披露してくれますが、攻めて攻めまくった後だけに物凄く沁みますが、思えば彼はこういうシンプルで叙情的な表現も得意なんだよな、とふと気が付いた。かなりの「今更」感がありますけど、でも本当に、目から鱗が落ちて、とても幸せでした。

(振付:デヴィッド・ウィルソン)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=ho4ZcS_uauQ&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=STh7R8V4vvo&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=3ZsPuH1uKb4&feature=player_detailpage

 

 

1213シーズン

SPGenesis/エアロダイナミック」、FS「インセプション」「グラディエーター」

 SPは前季のものを、アマチュア競技では久々の登場になるジュゼッペ・アリーナの手でブラッシュアップしたもの。全体の印象は同じですが、ややキャッチーになったかなという印象です。最初のFSだった「インセプション」は、動きに「Ancient Land」の時と似た、アルべナ&マキシムの癖がたくさん出ていますが、それが却っていいアクセント。ただ、「ボレロ」というか「メモリアル・レクイエム」に近い音楽――同じメロディのリフレインの中で、テンションをどんどん上げていく――にキャッチーさが無くて、ぎりぎりの緊張感で滑り切らないとだれるだけの作品だったことは間違いない。そしてそれは、シーズン序盤の彼には厳しいことだったのだと思います。

 「グラディエーター」は…正直、勘弁してくれ、お前どんだけヤグディンが好きなんだよと思いました(苦笑) そしてやはり最初に観た時は、ヤグディンの影がちらつきすぎて、実際に観ている筈の映像が霞んだものです。最後の最後まで、完璧だったとは言いません。ただ、このシーズンの彼は、恐らくバンクーバー以降最も強く全身で「俺はまだ闘う、闘う、闘い抜いて見せる」と叫んでいたように思うんですね。その気概には敬服するし、その気概に相応しい音楽を選んで、挑んだと思う。すくなくとも最後には、ヤグディンの影は見えず、ただ独り彼が居ただけですから。

(振付:SP:ジュゼッペ・アリーナ、FS:アルべナ・デンコワ&マキシム・スタヴィスキー)

 

SPhttps://www.youtube.com/watch?v=EzM9FdaLFkk

FShttps://www.youtube.com/watch?v=zgKg2lGTQr0(インセプション)

  https://www.youtube.com/watch?v=GCBWFNct0BE(グラディエーター)

 

 

1314シーズン

SP「ミューテーション」、FS「アランフェス協奏曲」、EXSand Storm

 長かったキャリアのラストシーズンです。そして彼が、四回にして最初で最後の、悪くない出来栄えで終えられた五輪のシーズンでした。重厚感のある音楽のSPは、直球ど真ん中のブライアン、という仕上がり。ステップにちょっとだけ遊びが入っています。そして、最後の最後にして新境地のFSは、万全の表現とはいかなかったまでも、静かな終わりを思わせて、しんみりとしながら見守っていました。

 でも、ある意味驚いたのはEXでしょう。誰もが彼に期待する、細かいトゥステップやら何やら、かつてはヤグディンステップと呼ばれていたものを、てんこ盛りにしています。だけど、もうあれは彼のものだなと。長い間見続けて、すっかり彼のものになったな、ということに気づきました。長いキャリア、そして苦しい闘いも多かったキャリアですが、彼らしく闘い抜いてくれた。そのことを、いちファンとして誇りに思います。

(振付 SP:ニコライ・モロゾフ、FS:ローリー・メイ)

 

SPhttp://www.youtube.com/watch?v=44Frp6_A49U&feature=player_detailpage

FShttp://www.youtube.com/watch?v=5Rd1bEp4Prc&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=2KaPoRthgrU&feature=player_detailpage

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