ナタリア・ベステミアノワ&アンドレイ・ブーキン(ソ連)

【主な成績】

88カルガリー五輪金メダル、8588世界チャンピオン

 

 風格と迫力、貫禄――見た目もピカレスクな美男美女カップルですが、存在感そのものに凄みがありました。ソ連のカップルらしい、何処にも歪みの無い端整なラインを描いているんだけど、迸るオーラや情熱は、それでは収まりきらない感じがした。そして、向かいあった時に流れる空気の「濃さ」は、言葉にならないほどのものがありました。ただドラマチック。でも、どんなに危険に見えても、気品を失うことはなかったんですよ。華やかで存在感のある女性と、彼女を美しく見せることを心得たダンスール・ノーブルな男性。そんな、古き良きアイスダンスならではの一対であったからこそ、彼らは揺ぎ無く高貴だったんだと思います。

 

 

8081シーズン

FD「ラ・クンパルシータ他」

 彼らも若いし、古い時代のダンスなので、ステップ以外に見所は無いようなものなのですが、それでも飽きなかった。寧ろ、そのステップが鮮やか過ぎて、目から鱗がバラバラ落ちた挙句、呆然としてしまいましたよ。ただ突っ走ってダレるところが無い。殆ど疾走するレベルの速さでステップを刻んで、ブレない、乱れない。当時まだ20歳そこそこだったのに。ソ連のアイスダンスって凄かったんだ…ということを、シンプルに思い知らせてくれます。

 

http://www.youtube.com/watch?v=tgV8eArtmeM&feature=player_detailpage

 

 

8182シーズン

FD「剣の舞他」

 とりあえず「剣の舞」に遅れないで走れるスケーターは稀有です。ましてやステップを合わせようなんて、無謀もいいところです。にも関わらず、彼らには出来ていました。前半の2分にはリフトさえなく、130秒までは、あの有名な音楽ですからね。狂ったように踊りまくっていた。そこから何故かスローパートは、ニーノ・ロータの「ロミオとジュリエット」ですが、ここはドラマチックで深い滑り。ただ、全体を貫くテーマやストーリーは無かったから「こんなことも出来ます」的表現で終わってしまっていますけど。

 

http://www.youtube.com/watch?v=4J_RQ4HFoio&feature=player_detailpage

 

 

8283シーズン

FD「チャールストン」

 もしかしたら違うリズムかもしれませんが、多分チャールストン。相変わらず気持ち良いほどステップで走りまくり、曲がこれですから雰囲気は明るく…で、お終いかな。いい加減、スピードには免疫が出来てきましたし、テーマもストーリーも無いせいか、全体の印象は散漫なので。

 

http://www.youtube.com/watch?v=cnjkTNF1Zhc&feature=player_detailpage

 

 

8384シーズン

FD「ロシア民謡」

 お人形が踊るような、コミカルで愛らしい振付のプログラム。とにかく明るく軽快に速く速く、かなり複雑なリフトなども織り交ぜていますが、それさえも独立したハイライトではなくて、アップテンポのプログラムの一部になって、転がるように進んでいく。すべてが一気呵成に駆け抜けてゆく感じかな。ただ、前のシーズンまでの散漫な印象はもう無くて、切り貼りではない音楽と、一貫性のある振付でした。因みに終盤に、反則じゃないの、と不安になるくらいのロングリフトがあります。

(振付:タチアナ・タラソワ)

 

http://www.youtube.com/watch?v=wuWeBG6h8ek&feature=player_detailpage

 

 

8485シーズン

OSP「カーニヴァルの夜に」、FD「カルメン」

 OSPはチャールストン。以前にFDで滑ったものよりも格段に洗練された、リズミカルで明るい演技。そしてFDは、彼らがトーヴィル&ディーン寸前の高得点を叩き出して、初めて世界の頂点に立った作品ですが、フィギュアの「カルメン」の中でも屈指の傑作だと思う。あの制約の多いルールの中で、ぎりぎりの動きを繰り返しながら、すべての動きに意味を与えて、濃密なドラマを織り上げていた。演技のためだけの動き、っていうものは無いんですよ。すべてがルールの範囲内のホールドであり、ステップであり、リフト。なんだけど、どうしてここでこういうホールドになるか、目線がこっちを向くか、それらすべてに意味があって、物語が出来上がる。バックからのホールド、絡み合わない視線、背中合わせのリフト…何もかもに、演出の上での役割があった。でも、何一つとして説明的ではない。単体で取り上げたら、どれもただの動き。ただ、絶妙の位置に配されて、最高のダンサーによって演じられた。血が迸るように危険で、緊張感溢れる激情のドラマ。たった4分間が、恐ろしいばかりに濃かった。

(振付:タチアナ・タラソワ)

 

OSPhttp://www.youtube.com/watch?v=JCGZWhkxBuA&feature=player_detailpage

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=8x7WhMB79Io&feature=player_detailpage

 

 

8586シーズン

OSP「パソドプレ」、FD「パガニーニの主題による狂詩曲」、EX「アンダルシア」「アルビノーニのアダージョ」「ジプシーダンス」

 OSPのパソドプレは、流石にあの「カルメン」を滑った2人の作品。緊張感とスリリングさ、良い意味でピカレスクで、引き締まったダンス。それと彼らは、フラメンコ特有の斜め回転を、とても効果的に取り入れていたと思います。FDは、ちょっと珍しい解釈によるクラシック。迫力で攻めなくても全身で音楽を語れる、という、彼らなりの見本のような演技です。特に最初の2分はスローパートが続きますが、見事な優雅さでした。

 それとこのシーズンは、彼らの代表作になるEXが色々ありました。「アンダルシア」はその後何気に20年以上も滑り続けることになる、代名詞的存在。スパニッシュ・テーマを滑るだけなら誰でもやっていることで、動きがそれらしいだけなら、もっと上手いアイスダンサーは何組も居る。でも、向かい合った時のあの緊張感、濃密な雰囲気は、彼らならではです。かなり距離を取ってのスタートですが、見詰め合った瞬間にもう、世界が出来ている感じがします。で、察するにこのプログラム、当時かなり斬新だったのではないでしょうか。大きなリフトがふたつありますが、最初のものは、現在の採点方式でもフリーに入れられるでしょう。当時はかなり衝撃的だった筈。一転して二つ目のリフトは、シンプルなホールドですが、雰囲気でじっくり見せる。このふたつの対比だけでも、十分美味しいプログラムです。

 「アルビノーニのアダージョ」は、深く、暗く、重厚で荘厳、どこか宗教的な雰囲気さえも漂わせる作品。最後のリフトはまるで「磔」です。そして「ジプシーダンス」も彼らの代表作。「アンダルシア」の、カスタネットに合わせるパートもそうですが、彼らはトゥステップで音を拾うのが上手いですね。ただ合わせるだけなら、恐らくかなり下位の選手にも出来るでしょうが、彼らがやるとそれだけで立派に音楽表現になる。見事な悲哀と情熱の世界でした。

(振付:タチアナ・タラソワ)

 

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=uts3C8UKbjM&feature=player_detailpage

EXhttp://www.youtube.com/watch?v=dEyJRNxkTjk&feature=player_detailpage (アンダルシア)

  http://www.youtube.com/watch?v=L1cGnC1B-T4&feature=player_detailpage(アルビノーニのアダージョ)

 

 

8687シーズン

OSP「皇帝円舞曲」、FD「キャバレー」

 彼らに優雅さが無いという人は、このOSPを観るべし。確かに、同じシーズンにクリモワ&ポノマレンコが滑った「ゴールデン・ワルツ」のような軽やかさは無い。寧ろドンと構えた風格と落ち着きがある、王者のワルツです。FDは、ここ数年の路線とは違うけれど、彼らにしてみれば原点回帰のような作品かも。コケティッシュというよりはコミカルで、フォッシースタイルらしきものはあまり見受けられませんが、十分、楽しい仕上がりです。

(振付:タチアナ・タラソワ)

 

OSPhttp://www.youtube.com/watch?v=B8s63DADkvc&feature=player_detailpage

FDhttp://www.youtube.com/watch?v=I-WOwyxqcxY&feature=player_detailpage

 

 

8788シーズン

OSP「ヘルナンドス・ハイダウェイ」、FD「韃靼人の踊り」

 OSPは、とても迫力のあるタンゴ。色気とか情熱とかいうよりも、静かな中に迫ってくる、狂気のようなステップでした。曲もフォッシーのミュージカルなので、アルゼンチン・タンゴというよりは、彼らの個性を濃密に出すための選曲だったと思います。FDは、思えば最初に観た彼らの演技でしたが、プログラムが始まる前、ウォーミングアップで何気なく流していたブーキンの姿に、既に目を奪われました。ただそれだけで、もう迫力があって美しくて、目にも絢な黒と金の衣装が、とてもよく似合っていました。

 彼らの、間違いなく完成形となる作品でしょうね。色々な意味で、圧倒される。斬れそうにシャープでスピードがある中で、次々と繰り返されるステップ、ポジションチェンジ、アクセントとしての斬新なムーヴメントの数々…すべてが澱み無く美しい。速いパートのアグレッシヴさと、スローパートの静けさ――そう、特に真ん中のパートは、鳥肌が立つような静けさです。瞬きをするのも憚られるような、高貴で濃密な静寂。そして、その中から生み出されるフィニッシュへ向かった躍動が、また鮮やかだった。「カルメン」に始まって、彼らの演技は、基本的に苛烈で迫力があった。でも、その中にいつも、王者の貫禄があり、何をしていても崩れない美しさがあって、それが気品になっていたんだろうな、と思います。

 それから、ここに限ったことではないのですが、ブーキンは「踊らせる」のが上手い。でも、決して黒子に収まらないアピールもしてはいるんですよ。絶対にベステミアノワから主役を奪うことは無いのに、足元といいポジションといい、いつも目を引く美しさを持っていた。彼を観ていて思い出すのは「ダンスール・ノーブル」という言葉。クラシックの王子は、決して王女より目立ってはいけない。でも、良いダンサーは決して、引き立て役では終わらない。確実な技術を持っているからこその的確なサポートと、目立ちすぎないように押さえた表現の中にもある、絶妙のアピール。光でもなく影でもない「支える者」としての自負と存在感。その、見事な一線上に、彼は立っていると思うのです。

 

OSPhttp://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=mW3TjIvdxmc

FDhttp://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=E-t7YZvgQQg

 

 

「タンゴ」

 因みに彼らは、現役引退後も20年以上にわたって、氷の上での良きパートナーシップを維持しています。そのことにも頭が下がる思いですが、とりあえず、往年の美男美女から素敵な不良中年カップルになった姿が素敵。そして、ベステミアノワが多少ふっくらしたくらいで、殆ど崩れていないラインが美しい(特にブーキンの背筋と脚!)。もちろん、リフトは背中など広い面を使って支えるタイプに変わっていたりしますが、まだまだ足元は綺麗です。多少おふざけも交えつつ、相変わらず雰囲気は濃厚で、格好良いと思えるダンスでした。

 

http://www.youtube.com/watch?v=ecv2STihi3w&feature=player_detailpage

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