622日・撮影〜月人

 正直言って、SIVAと対バンって言われた時には「何だそりゃ」と思った。事情を聞いたら理解は出来たし、どっちみち俺らはSINさんについていくだけだから、とも思ったけど、納得するのには時間がかかった。

 最初に思ったのは、自分のライヴをきちんとやればそれでいいってことだ。

 どの道俺は、SINさんとKyoさんが前にやっていたバンドのことなんて知らないし、SIVAの音源も聴いたこと無いし。そういう時は、無理にいい子になろうとしないで、あるがままにやればいいというのが、俺の持論だった。

 なので、撮影はSIVAと一緒だと言われると、多少戸惑う。せっかく「俺は俺」で腹括ったところだったのに。そりゃあ、同じセットで撮るからって言われると、返す言葉も無いんだけど。

 で、現場に行って何に驚いたって、SINさんが超リラックスムードでSIVAのメンバーと雑談していたことだ。有り得ないだろう、と。

 俺の知る限り、現場でのSINさんは、度が過ぎると思えるくらい厳しい。音なら何百分の一音まで、撮影にしてもミリ単位までこだわり抜いて、どんなに些細な手抜きさえも許さない。よくあれだけの精度で物事をこなし続けて持つな、と常々思っていたけど、他人にもかなりのレベルで、そういうことを要求するから。だから、現場に入る時はいつも、こっちだって神経を研ぎ澄まして、極限まで張り詰めるくらいの勢いで入るのに。

 行ってみたらこれは、無いよなあ。

 って、実際に撮影が始まったら、完璧にいつものSINさんだったんだけど。

 ま、ぶっちゃけ、いろんな意味で安心したっていうのが、正直なところだ。仕事に入ったらいつものSINさんだった、っていうのが一番大きいんだけど、ああやって昔の仲間と他愛ない話をしてるところを見ると、SINさんも人の子だったって言うか。Kyoさんとは、ガキの頃から知り合いだって言うけど、プライヴェートで行き来があるわけじゃないらしいし、何しろSINさんは、存在そのものが近寄り難い。

 音楽的な才能は言うまでも無いとして、撮影の度に思うことだけど、常識離れしてキレイなんだよな。この業界に居て決して短くは無いし、「V系」と呼ばれるミュージシャンの中に居るのはもっと長いけど、あらゆる意味で、SINさん以上に「美しい」という言葉の似合う人は居なかった(生で見た中では。俺が聴いて育った若干のV系オリジネイターを除く)

 素の顔立ちも相当なものなんだけど、メイクをすると十倍増しで凄みが出るし、何を着ても「嫌味ですよ」って笑えるくらい決まってしまうし、ステージに居る時でも、カメラの前でも、インタビューのマイクを向けられているだけの時でも――人目に対する、いい意味での緊張感があって、振る舞いに隙が無い。極端な話、オフィスの机でパソコン打ってても決まる人が、あれやこれやで完全武装した時と言ったら、そりゃもう、キレイ過ぎて近寄り難いっていうことだ。

 んで、実はSINさんは、ツアーが終ってすぐに、トレードマークだった腰までの長髪をバッサリやってしまったのだが、それでまた男が上がったから、嘘だろうってなもんだ。

 ていうか、ねえ、そういう時、しみじみ思ってしまうわけだ。あーこの人、天下の河村あすかの彼氏なんだなー、とか。

 知った時は、そりゃ焦った。何しろこっちにしてみたら、ガキの頃からCMその他で見慣れているあの人だから。でもって、何かの時に本物を見たら、全然イメージを裏切らない人だったので、ぶっちゃけ退いた。あそこまで美人だと、現物はちょっと劣化があるくらいが、安心感があっていい。

 そういえば、ツアーが終ってすぐに、デザイナーの佐藤さんの関連でパーティみたいなのがあって、俺らも顔を出したんだけど、その時面白いことがあった。

 よくは知らないけど、SINさんと河村あすかの間には、仕事に関しては相互不干渉、みたいな決まりがあるらしくて、確か、河村あすかは過去一度たりとも、ウチのライヴを観に来たことは無い筈だ。ま、そんな2人が唯一顔をあわせる仕事が、佐藤さん関連ということ。

 ってまあ、それでも別行動だったんだけどさ。ただ何かの拍子で並ぶことになった瞬間があって。あれは圧巻だった。SINさんは「beauty : stupid」のスーツにアクセがじゃらじゃらっていう、まあ、いつもの格好なんだけど、いつものことながら決まりすぎてて。一方の河村あすかは、佐藤さんとのコラボブランド「CODE AMETHYST」のドレス――ブランド名と同じアメジスト色の、露出度は低いのに嘘みたいに色っぽいやつ――なんかで。あれは絵になるどころの騒ぎじゃなかった。

 ちゅうか、何してたわけじゃないんだけど、当てられた。確かあの2人、付き合って相当長い筈だ。俺がD.M.C.に入った頃には既に同棲してたと思う。それが、何でああも「濃い」空気を維持出来るかサッパリ分らない。並んで立った瞬間に、強烈な色気が匂い立った。んで、SINさんの態度、あれが「風にも当てない」って言うんだな。半径1メートルくらいが別世界になった感じがして、近寄りたくなかった。

 んで、ふと気が付いたら、会場の隅で青褪めている女の子が数人。後で聞いたら、手を尽くして潜り込んだバンギャルどもだったらしい。卒倒もんだっただろうな。

 なんて、ぼーっとしていたら、後ろからKyoさんに背中を叩かれた。

「気を抜いてると、すぐに自分の番が来るよ。普段の撮影の段取りじゃないからね」

そうなのだった。SINさんの機嫌が妙にいいのは、SIVAのマネージャーの仕切りが嘘のように的確で、SINさんの要求を、言わなくても満たしているからだ。それもそれで有り得ないと思う。あの人の要求の高さは尋常じゃ無いってのに。ともかくこの段取りなら、2バンド一緒に撮ってしまった方が楽だ。時間だけじゃなくて経費の削減にもなるし。

 でも、気を抜くなと言われても、今ちょうど目の前では、SIVAの集合写真を撮ってる最中で、俺たちはすることが無い。

「せっかくだから、よく見ておいたら。よそのバンドの撮影を見られるなんて、滅多に無い機会だからね」

Kyoさんはそう言うが――そうだろうか。

 ヴィジュアルだけで言うと、SIVAは二分割出来るバンドだ。弦楽器の3人と残り2人。V系にも入れる方と、そうじゃない方。どこをどう見てもロックな方と、ポップスにも入れる方ってか。弦楽器の3人は、表情やインパクトを作るのも上手いし、撮られるのにも躊躇いが無い。残り2人にはそれがある、という分け方も出来る。

 ぶっちゃけ俺には、どうしてあの3人と2人が同じバンドという括りの中に居られるか分らない。見た目の差だけと言われるかもしれないが、それは面構えの差でもあり、持っている空気やオーラの差でもあるから。

 が、よく見てみると、確かに面白いことが分った。撮られ方が、55様で全然違う。一番分ってないのは、どうやらドラムだ。ヴォーカルにはテレがあって、逃げが入っているが、これはカメラマンやメンバー(主に上手のギタリスト)がどんどん駄目を出して行く。で、その上手ギタリストは、多分一番、意図的にきちんと撮られているし、全体を見ている。逆に紅一点の下手ギタリストは、凄く自然体なんだけど、そのままで様になっている。で、昔SINさんKyoさんと同じバンドだったというベースは、一見無造作なんだけど、一番ミュージシャン然としていて、何気なく、それらしく決まってしまう。

 で、その5つを組み合わせると、全体として何となく纏まってしまう。というか、10ずつを足した筈なのに、写真の段階で60くらいの存在感にはなっている。何だそりゃ。

 俺は思わず、呆れてしまった。それがバンドというもののマジックだとは言っても、こんなバックステージで、さらっと当たり前に出されても困るんだけど。それこそSINさんと河村あすかのツーショットみたいに、対応に困るだろーが。

「…Kyoさん。いいバンドですね、SIVAって」

辛うじて口をついたのは、そんな、どうしようもない台詞だった。

「見てたら分るでしょ」

Kyoさんはそう言って、笑った。

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