二年ぶりに、生のフィギュアスケートを観てきました。このところ、ちょっと興味が舞台ものの方に傾いていて、今回も行こうかどうか迷いましたが、行って良かった!やはりフィギュアは断然、生が良いです。そして私は、その時その場の、生身の人間が放つオーラが大好き。それは、舞台でもスポーツでも変わらない魅力ですよね。

 

男子SP

正直、会場に来るまではあまり観る気がしなかったんですが、さりげなく豪華ですね。アメリカの主力がごそっと居て、ダンビエとか李成江とか、中堅どころのいい選手も居て、まあ一応、日本のエースも居て。ただ、今季は全体的に、仕上がりが遅いですよね。やはり新採点のせいで、内容の詰まったプログラムを作ってきてますし、ミスがダイレクトに得点に跳ね返る分、萎縮している選手も居るような気がします。あ、採点に関する云々は、きりが無いし、今更ガタガタ言っても遅いので、極力言わないようにします。

 一人目は、日本の新人、小林宏一選手。曲は「ボレロ」ですが、最近、ボレロの安売りセールって感じで、ちょっと聞き飽きてきたなぁ…でもフィギュアスケートっていいですねぇ。広いリンクの上に、大して大きくも無い人間が一人。その、ぎょっとするほど広い空間を、どうにかして自分の存在感で埋め尽くさなきゃいけない。結論から言うと、彼はその段階には思いっきり未到達、リンクの使い方も小さいし、淡々と滑りすぎていて、最後の盛り上がりにも欠けました。でもまあ、最初に基本を気付かせてくれてありがとう、って感じでしょうか。あと、この曲で最後はストレートラインステップっていうのは面白かったです。日本人の若い選手にしては、最初から身のこなしも綺麗だし、上手く磨けばもうちょっと光るんじゃないかと。

 二人目は李成江。彼に限らず、中国勢の男子は、ソルトレイク以降の伸びがイマイチという印象。特に昨シーズンはパッとしなかった。この「グローバル・スピリット」は、彼の多くのプログラムのように、明らかに無理な選曲、振付ではなく、「カンフー」系の、歯切れの良い仕上がり。最初の四回転も綺麗に決まって、今季はすこしマシかなと思ったんですが、次の、ステップからのループでよろけ、最後にアクセルで失敗。あとスピンが、六分間のウォーミングアップと比べて明らかに遅かったです。ステップからのジャンプも、何故ループかなと。彼、ジャンプ得意なのに…体自体はよく動いてたので、そこにせめてもの救いを見出したい気分です。

 マイケル・ワイスは、生は初めてでした。李に比べると滑りの切れが良くて、パワーがあって、これぞ一流選手、という感じがしました。動き全体もそんな感じ。豪快なデスドロップが見事でした。得意のルッツにも迫力があって。ただ彼は、ベテランならではの「これだけは」みたいな持ち味は無いですね。あと、彼はいつも、トリプルアクセルが空中でかなり斜めになるんですが、今日は真っ直ぐでした。で「おお?!」と思ったらステップアウト。それって何なんだろう…?

 フランスのアルバン・プレベール。スタートのポーズを取った瞬間に、「あ、フランス人だ」と思いました。身のこなしの一つ一つには、まだ磨き足りない部分があるんですが、フランスの選手って、それでも何か、粋で垢抜けた空気を纏っているものですから。そういう意味では、彼はすごくフランス人らしいフランス人選手。ただ、せっかくジャンプはノーミスだったのに、ステップで転倒してしまい、本人も悔しそうでした。最近、この手のミスも多いですよね。新採点対応で、無理をしている選手が多いのでしょうか。あと、このリンクは気温が高めだったので、氷も柔らかかったのかもしれません。

 五人目は、私のお気に入りの一人、フレデリック・ダンビエ。彼も生は初めてです。曲は「カルミナ・ブラーナ」。ヴォーカル入りですが、かつてトッド・エルドリッジがISUに確認したところ、ラテン語は既に使用されていない言語だから、別に良いんですって。あと、編曲の段階で言葉がはっきり聞き取れない程度にいじっておくらしいですね。で、このダンビエは、フランス風の洗練された雰囲気を強烈に持っている選手ですが、同時にどこか、オリエンタルな雰囲気も漂っている気がします。とても小柄な選手ですが、体の使い方が上手くて、見飽きることが無いですね。速いスピンと、スピードに乗ったイーグルからのトリプルアクセルがハイライトでした。そのほか、繋ぎに入るイーグルもとても綺麗。惜しむらくは、最初の四回転サルコウの転倒ですが、このジャンプ、基本的にあまり成功率が良くないですよね。だからまあ、ある程度、予想はしてました。

 第一グループの最後は、帰ってきた男・本田武史。昨シーズンの後半を丸ごと棒に振ったお蔭で、すっかり「消えていた」感があります。そして、直前のスケートカナダの放送を観て「おいおい、大丈夫かよ」と思い…予想はそのまま的中してしまいました。コンビネーション、アクセルと決まらず、体も重そう。これが今の彼の限界なのかと思うと、非常に悲しいです。滑りはとても綺麗でしたし、ステップは一週間前よりかなり良くなっていたので、徐々に持ち直すことを願うばかりです。そういえば、今年のプログラムは振付者が公表されていませんが、誰なんでしょうね?昨シーズンの田村君と同じ曲。あとひとつだけ酷なことを言えば、この曲は田村君の方に、より似合ってたと思います。

 第二グループは、ウォーミングアップから楽しかったです。第一グループの選手たちは、本当に体を温める程度で、大したことをしてくれなかったので。こういう時に、ど真ん中で逆回転のスピンをしてくれたり、ジャンプを跳んでくれたりすると、退屈しないので有難い(苦笑)。

 一番手はアメリカのジョニー・ウェイアー。凄く人気があるんですね。確かに、身のこなしが美しくて、中性的な雰囲気で、女性ファンがつきそうな選手ではあります。が、私にはピンとこないなぁ。確かに、フィニッシュのものを筆頭にスピンは速くて綺麗でしたし、ステップもまあまあ、良かった。ジャンプも一応、ノーミス。多分、彼は私の好みから言うと、線が細すぎるんでしょうね。「中性的」というのが苦手だったりするので。あと、「序曲とロンド・カプリチオーソ」は、四年前にスタニック・ジャネットがFSで使ったのが、非常にエキセントリックで面白かったので、シンプルに滑られると、違和感があったかも。

 続いて、ウォーミングアップで脚光を浴びた(?)男、カナダのショーン・ソーヤ。脚が高く上がる選手ですね。姿勢が綺麗で、スパイラルポジションを取った時、くいっと曲げられた脚がアクセントになります(動きのクセとも言えるかな)。この選手、回転が時計回りなので、集団の中でスピンを回ると目立つんですよね。で、そのスピンがとても綺麗でした。それこそ高い脚のポジションが女子選手なみ。曲は「リベルタンゴ」でしたが、直接タンゴを踊ろうとしないで、ちょっとバレエっぽく仕上げていて、面白かったです。

 続いて日本の中庭健介。「四季」というベタな曲が、一体彼にどの程度似合うのか、という問題はあったかと思いますが、頑張りましたね。4+3のコンビネーション、トリプルアクセル、ステップからのフリップと、ジャンプは完璧。本田君の調子が悪いこともあって、良い意味の欲が出てきているんじゃないでしょうか。ただ、スピンはお粗末、ステップシークエンスは二つとも途中でスリップと、かなり勿体無い。願わくば、ジャンプの成功を「まぐれ」にしないで、細部も固めていって欲しいものです。

 ティモシー・ゲーブル。彼はいわば「帰ってきた男・その2」ですが、上手くなりましたね!最初がダイアゴナルステップからでしたが、歯切れの良い綺麗な滑りで、驚きました。ラフマニノフのコンチェルトなんて、去年までの彼には似合わなかっただろうし。ジャンプも四回転サルコウ+ダブルトゥ、トリプルアクセル、フリップと完璧で、一人前の、大人のスケーターになったなぁと、ちょっと感動。姿勢に関しても、腕のポジションがちょっと甘い以外は、もう気になりませんし。四年前は、この猫背は一生治るまい、と思ったものですが。でも、何故にこの出来でウェイアーより下?!彼にしては、五輪シーズン以来の良い出来だったと思うのですが(それはオーバー?)。新採点はよくわからんのです。

 カナダの若手二人目、ニコラス・ヤング。最初のステップがちょっとおしゃれだったので、どんなプログラムかなと思えば、コミカルな動きが続きました。曲は「サイレントムービー・メドレー」とのことでしたが、メインは「アルプス一万尺」だったし。こういう肩透かしは大歓迎!もちろん、そんなに難しいことをしているわけじゃないんですけど、楽しかったからすべて許す。どう頑張っても日本ではテレビに映らない、こういう選手を知ることが出来るのも、生の醍醐味です。

 最後はロシアのアレクサンドル・シュービン。ソーヤといい、ヤングといい、高橋君と世界ジュニアで競った選手がゴロゴロ来ていたんですね。彼は今年、GPシリーズは欠場してますが、地方大会には出ているし、せっかくだから来れば良かったのに。で、シュービンについてですが…長身で、立ち姿に華のある選手ですね。以上マル。ジャンプはアクセルがダブル、コンビネーションはサルコウからの3+3と、今回参加した中で一番簡単だし、ステップも見栄えは良かったけど大したことしてませんし。スピンは綺麗でしたけど…あと音楽。どこかで聞いたと思って、一生懸命考えたら「くるみ割り人形」の、金平糖の踊りでした。エレキギターの歪み音で「くるみ」…うーん(−−;)

 

アイスダンスFD

今回の私的目玉で御座います。それにしても、シーズン序盤のこんな時期に、本当にやっちゃっていいのか?!の頂上対決。NHK杯のスケジュールが早くなったせいで、殆どすべてのプログラムは初見という、とても幸せな状況。オチもなかなか、幸せでした。

 最初は中国のファン・ヤン&チョンボー・ガオ。曲は、「フリーダ」のサントラ、ヴァネッサ・メイの「トゥーランドット幻想曲」「ザ・ストーム」と、割と節操なく繋いでました。ステップの部分が薄くて、ダンスよりはペアを観たような気がします…すみません、彼らの印象は限りなくゼロに近いです。

 続くウズベキスタンのオルガ・アキモワ&アレクサンドル・シャカロフ「ザ・マスク」。よく踊るカップルですね。動きが派手で、粗いけど見栄えは良かった。そういう意味では、中国組よりは面白かったです。ただ、ODと思いっきりかぶってしまう、この選曲はどうよ、という問題はありますけど。

 都築奈加子&宮本賢二の「キダム」。しみじみと思いますが、都築さん、綺麗になられましたね。以前ファルフトディノフと組んでいた時は、二人とも何だかポジションが定まらなくて、不安定なイメージしかありませんでしたが、「ここ」というポジションをちゃんと決めていて、雰囲気もすごく良い。でも、それを言うならまず、宮本選手でしょう。彼の明るいキャラクターは、日本人のフィギュアスケーターとしては貴重ですよ。大見得を切るのに躊躇いが無く、恥も晒せる。人前に出るのが好きで仕方ない。そんな心意気が、ビシッと決まるポジションのひとつひとつから伝わってきます。技術的には、トゥイズルの逆回転があまりにもあまりだとか、しょうもないところで都築さんの足を高く上げすぎて転倒させてしまったりとか、ツッコミ所は多々あるんですけどね。まあそれを置いておいて、素直に楽しめました。難しいリフトが色々入ってましたが、そんなに無理してる雰囲気も無かったですし。

 同じ日本のカップル、渡辺心&木戸章之。毎年、成長を楽しみにしているカップルですが、この二人は都築&宮本と対照的ですよね。足元からしっかり鍛えて、きちんとステップを踏む。その部分はどんどん上手くなってゆくんだけど、ラインはいつまでたってもあまり綺麗ではない(ついでに言うと蛍光色の衣装もちょっとなぁ…)。一長一短で、お互いに勿体無いですよね。ただ、今シーズンの彼らのプログラムは、ちょっとどうなんだろう、と思います。無理をして片足のリフトをやりすぎている。どう観ても、得点になるからと、無理矢理上げているようにしか見えず、最後のひとつを除いてさっぱり綺麗ではない。同じコーチについている、グディナ&ベレツキーもそうでしたが、こういう半端なリフトは情け容赦なく減点して、駆逐してくれないかなぁ、と本気で思います。もっともっとこの曲、この振付、このカップルに似合うものは、ほかに色々ある筈なんですから。

 続くロシアのスヴェトラーナ・クリコワ&ヴィタリー・ノヴィコフは、今回とても楽しみにしていたカップルです。曲はサラ・ブライトマンの「モナムール」とフラメンコ。三月の世界選手権の時は、まだ組んで三ヶ月目、素晴らしい粗さを見せてくれた二人ですが、僅かな間に洗練されましたね。もちろん、ギターの単音でどんどんテンポアップしていく部分など、技術的にもっと高いレベルが欲しい部分はありました(あれはチャイト&サフノフスキーがやったら恐ろしいことになるでしょう)。でも、ムードはとても良かった。ちょっとセクシャルにも思えますが、悲鳴に近いソプラノに負けもせず、迫力満点の演技を見せてくれました。同じ若手の、ドムニナ&シャバリンとの対決も楽しみです。

 ウクライナのユリア・ゴロヴィナ&オレグ・ヴォイコ。ジプシーキングスのメドレーに合わせたフラメンコでした。出だしの、交差の入ったトゥイズルが綺麗でした。あとのパートは、元気に走って、踊りました、という感じでしたが、好感度は高かったです。一作シーズンの「鼓童」もそうでしたが、溌剌とした演技が似合う二人ですね。あと、調べてみてびっくりしたんですが、彼らの今のコーチは、都築さんのかつてのパートナー、リナート・ファルフトディノフなんですよ!その後どうしたのかなぁと思っていたので、消息が分ってちょっと嬉しい。

 イスラエルのナタリア・グディナ&アレクセイ・ベレツキー。得点はパーソナル・ベストを更新して、よく滑れていたんでしょうね。確かにパートパートで観るべきものは色々あった。四つあった片足リフトも、半分は許しましょう。でも一つだけ言いたい。一作シーズンの「ノートル=ダム・ド・パリ」からずっとそうですが、曲の切り貼りの仕方に節操が無さ過ぎる。しかもヴォーカル入り。歌詞の意味とか、曲のこととか、もうちょっと大切にしてくれないものでしょうか。

 最終グループ。アイスダンスになった瞬間、最下位レベルの選手であっても、やっぱり滑りは綺麗だなぁ、と感動します。グループが進むごとに、レベルアップしていく滑りに圧倒されます。で、それは最終グループの時点で頂点に達するわけです。デンコワ&スタヴィスキーの深くて鋭いエッジには息を呑みました。それと、リンクサイドに出てきた選手たちの後姿が面白かった。最初に出てきたのはオリヴィエなんですが、立ち姿の何と美しいこと。体格も見事なら、姿勢も綺麗。「雰囲気美形」度では、あとから出てきたナフカといい勝負です(ナフカの顔立ちは、個人的にあまり好みではないので。でも、素晴らしい雰囲気美人だと思います)。あと、めちゃくちゃ気合入ってたアルベナさん。最初、スタヴィスキーに衣装を直させていたんですが、おもむろにゴレリクコーチの腕を取り、バー代わりにして柔軟を開始。あまりに勢い良く動くので、コーチが苦笑されてました。その後、周りの迷惑顧みず、ぶんぶん凄い勢いで腕を回してたり。

 そのデンコワ&スタヴィスキー、新しいFDは「バッハ・トゥ・アフリカ」。バロック音楽+エキゾチック系(アフリカ音楽?)のミックスで、相変わらず素晴らしいエッジワークを堪能させてくれます。まだ滑り込みが足りないのか、昨シーズン終盤のようなスピード感には欠けますが、入り組んだステップは見ごたえ十分。昨シーズンは押さえ気味だった、しなやかにくねる上半身の動きも絶好調。次々と繰り出されるイーグルのリフトも素晴らしかった。特に中盤にかかる辺り、回転とのコンビネーションのリフト。後半の回転、花が咲いたようで綺麗でした。ただ…昨シーズンの「サラバンド」もそうでしたが、一言で「こんなの」と言い切るのは難しいプログラム。消化するのにも、きっと時間がかかるでしょう。そんなわけで、今は技術的に凄かったことしか言えないですね。あ、あと、残念ながらいつものことですが、トゥイズルがやや不安定でした。特にスタヴィスキー。フットワークやサポートには定評のある彼ですが、トゥイズルは何だかいつも、必死になってアルベナさんについていってる感じがします。軸もそれほど真っ直ぐではないし。

 アメリカのメリッサ・グレゴリー&デニス・ペチュコフ。ピンク・フロイドのメドレーでしたが、イーグルリフトの本家本元(?!)二組に挟まって、思いっきりパクリのリフトをやるのもどーかと思うんですが…世界選手権の入賞選手たちに囲まれて、最終グループの中で一組だけ順位が落ちるので、ちょっと見劣りしてしまったかなぁ。元々、あまり強烈な印象を持っていないカップルなんですが。

 イザベル&オリヴィエの新FDは「フリーダ」。赤や紫、オレンジのグラデーションからなる、サイケデリックな衣装が、不思議とよく似合います。それと、長らく待っていた新路線のプログラムで嬉しかった。味付けはスパニッシュですが、全体的に静かでシック。とても静かで、そこはかとなく、匂うように色っぽい。流石はマリナ&グェンの後輩と思わせる、流れの美しさも印象的です。技術的なことを言うと、彼らの場合、レベル4のリフトを幾ら入れても厭味にならないのが強みですよね。相変わらず、イーグルのリフトが素晴らしく綺麗。今回流行の、男性が低い姿勢で上げる、一直線のリフトもそう。でも、最大のハイライトは美しいラインのムーヴメントであり、高速回転のトゥイズルだと思うんです。そのトゥイズルは、恐らく難易度に負けて、二度とも乱れがありましたが…でも、腕やフリーレッグのポジションがとても綺麗で、聞くところによると難しいらしいです。回転の速さ、鋭さ、逆回転に切り替える速さはもう、申し分無し。低い姿勢のムーヴメントは、あれだけ体格の違う二人にも関わらず、くっきり左右対称に見えるのが凄い。きちんと完成するンが楽しみです。そして、カナダやイスラエルとの対決も。

 最後のナフカ&コストマロフ。曲は、ダンスには珍しい、オペラの「トスカ」。最初の一分は、凄いなと思っていたんです。相変わらずナフカが美しくて、回転系のエッジもシャープだし、このまま逆転するのかなと。でも、そこまででした。この曲は、恐ろしいばかりのパワーを持っていて、スケーター側にもそれを要求する。で、ナフカたちはパワー系ではない。あと、曲がどーんと盛り上がる、言ってみれば波の頂点の部分が何度かありますが、ダンスの場合、そこに持ってこられるものがリフトしかなくて、結果的にワンパターン化してしまう。一見ドラマチックで使いやすそうに思える曲ですが、様々な罠が潜んでいて、悉くはまっちゃったなぁ、と。芸術点は出ましたが、技術点はオリヴィエたちの下をいきましたもんね。あと更に言うなら、このカップルには、既に物語のある音楽じゃなくて、物語の無い音楽に、振付とか演技でドラマ性を持たせていく方が似合う気がします。

 そういえば表彰式の時に、ちょっとしたハプニングがありました。最終グループの第一滑走だったデンコワ&スタヴィスキー、スタヴィスキーは自分の滑走が終わったら、さっさと衣装を脱いでしまって、表彰式前に急いで着直していました。で、コールには間に合ったわけですが、何故か最終滑走だった筈のコストマロフが出てこない…イザベルたちももう準備できているのに、出てこない。一瞬、採点に不満で表彰式をボイコットする気なのか、などと思ってしまいましたが、ナフカは出てきて笑っている。何なんだ?と思っていると、慌てて衣装を羽織りながら出てくるコストマロフ。トイレにでも駆け込んでたんですかね(笑)。

 

女子FS

マスコミ的ハイライトはこれでしょうか。でも、これもけっこう豪華な顔ぶれですよね。世界チャンピオンの荒川さんがいて、美姫ちゃん、恩ちゃん、ヴォルチー、ソコロワ、リアシェンコと、中堅から表彰台ラインまで、多彩な顔ぶれが揃っていて。

 一番手はアメリカのアンバー・コーウィン。NHK杯では既にお馴染みですね。でも、今回は曲が「韃靼人の踊り」。彼女の持ち味は、平板に聞こえる曲を淡々と滑り続けても、何となく味があって、退屈せずに観られるところだと思うんです。それが、突然こういう盛り上がり系の交響曲を持ってこられてもなと。案の定、淡々と滑りすぎて、曲に置いていかれましたね。そのせいでは無いでしょうが、ジャンプも後半になるに従って不安定になっていきましたし。

 二番手はオーストラリアのミリアム・マンザーノ「スペイン庭園の夜」。初めて観る選手ですが、高い脚のスパイラルが綺麗ですね。あと終盤のスピンとか。ファリャの曲も良かった。以下、クロアチアのイドラ・ヘーゲル、イタリアのヴァレンティーナ・マルケ、フィンランドのアリサ・ドレイと続きますが、続けてパッとしなかったかも。ヘーゲルは、確かに滑りからも姿勢からもパワーは感じるんだけど、だからどうしたという感じで。あと彼女は、ここ数年、似たような赤い衣装、スパニッシュ系の選曲が続いているので、正直「またか」という気もしますし。マルケは「Xotika」で、イタリア人らしい、明るい演技を見せてくれましたが、ここという見せ場は特に無し。ドレイが滑ったシベリウスのワルツも、淡々としすぎていた印象。元々フィンランドの選手はシンプルな滑りをしますが、彼女の場合、同国人のポイキオやケットゥネンほど滑りが良くないのが惜しいかも。

 最終グループですが、世界チャンピオンが居ると、六分間のウォーミングアップまで、こうも違いますかね。みんな攻撃的。リンクのいたるところで、ルッツやコンビネーションなど、難度の高いジャンプが繰り広げられる。でも、そんな中であっさり3+3を決めてしまった荒川さんの落ち着きは流石です。

 一番手はヴォルチコワ。彼女も割りと好きな選手ですが、昨シーズンの頭、コーチ変更について色々とゴタゴタがあったそうで、以来低迷している感があります。SPの放送を観た限りでは、調子も良さそうだし、何でこんな点しか出ないかな、と怒っていたんですが。FSはドクトル・ジバゴから「ララのテーマ」。彼女によく似合う曲です。確かにジャンプの調子はイマイチだったけど、彼女は滑りも綺麗だし、ジャンプも決まれば高い。スピンやステップにもだいぶシャープさが出てきましたし、何よりも雰囲気が明るくなって、メリハリが出てきた。みっちりバレエを踊り込んでいるのが分る、綺麗な身のこなしも生きてきました。今後、調子を上げてまた上の順位に上がってきてくれることを期待します。…最後に一言だけ。このプログラムはモロゾフの振付ですよね?まっとうな振付けも出来るじゃないですか。なのに、何だってジュベールであんなに遊ぶかなぁ?(以下自主規制)。

 続いて荒川さん。SPの放送を観た限りでは「隙無し」といった感想を持ちました。路線としては、きっちり綺麗に昨シーズンの延長線上で、面白く無いとも言えますが、別に守りに入っているわけではない。各エレメントの質は文句なしに高く、彼女によく似合う選曲、振付。FSもそんなものかしら、と思いましたが、ちょっと違った。振付はともかく、音楽はこれでいいのか?と。チャイコフスキーの「幻想序曲 ロミオとジュリエット」なんですが、彼女にはまだ無理のような気がします。

というのは…荒川さんの動きの特徴は、ビシッとポジションを決めるのではなく、とどまること無く、ゆったりと流れてゆくこと。その一方、動きを止めたり、歯切れの良い音楽でメリハリをつけたりするのは苦手とお見受けします。タラソワに移った後も、そこを改善するよりは、逆手にとってダイナミックさを演出するような振付をしてきました。昨シーズンの「トゥーランドット」などは、それが見事にはまったわけです。で、これも同じ意図での選曲かと思うんですが、これとあれでは、根本的に盛り上がり方の質が違うと思うんですよね。「トゥーランドット」はクレッシェンドの盛り上がり。「ロミオとジュリエット」には、大きな波が来て、またすこし引いて、というようなメリハリがあります。そこのところに上手くインパクトを持ってくるのが、彼女はすこし、苦手なんじゃないかと。

 とはいっても、演技自体はそれなりのものでした。最初のルッツで着氷が不安定になったと思えば、素早く次のサルコウを3+3に切り替える。転倒がひとつあったものの、全体的にはまったく危なげない演技。ステップもSPより密度がありましたし。やっぱり彼女に勝つのは難しそうです(誰が?)。あと、私はチャイコフスキー偏愛だし、村主さんファンだし、この評は明らかに、ほかの人より辛くついてます。その点、ご承知おきください。

 続いて、待ってました、恩ちゃん。スケートカナダの放送で、久しぶりに活き活きと滑る彼女を観て、とても楽しみでした。が、前日のSPでは、緊張のためか、去年の固く強張った恩ちゃんに逆戻りしていて、心配な面もあり…この日も、六分間のウォーミングアップでも転倒してたし、スタートポジションにつく前にもふらついてましたし。本当に、凄く心配でした。でも、彼女は強かった!最初に素晴らしく高いルッツコンビネーションを決め、続くダブルアクセルはトリプルトゥとのコンビネーション。これ、何故誰もやらないのかずっと不思議で、一度観てみたかった技なんです。オーバーターンしてしまいましたが、よく決まりましたね!ちょうどワイジンガーコーチの目の前だったのですが、コーチもとても嬉しそうでした。

 曲は、吉松隆の「白い風景/消える雪/メモ・フローラ」。相変わらず、難しい曲を選ぶなとは思います。咲きほころび、風に揺れて、ちらちらと舞う桜の花。それが持つ華やかさ、「根元に屍体が埋まっている」的な底知れない恐ろしさ、あるいは人を狂気に巻き込むような力…桜というのは、日本文学的には、恐ろしいまでの内容量を持つモチーフなんです。曲はともかく恩ちゃんは、それを表現しきるには、あまりに幼い。でも、その可憐さと健気さ、何よりも「活きている」という意味において、彼女は確かに「花」だった。はっきり言って、私はもう、彼女のことは「親心」で観てますから、ヒイキと言われたら反論のしようもありません。でも今回は泣けました!

 で、突如ヒイキを引き倒して、残りの選手たちを呪い始めたりして(爆)。でも、この日一番凄かったのは、続いた安藤さんでした。SPを観た限りでは「この出来でこんな点が取れるんだ?」あるいは「ジュニアで観た時は大人っぽかったけど、シニアに混じると子供だな」といった感想だったんですが、この日の彼女は恐ろしいばかりの気迫を放ってました。四回転は封印していましたが、代わりに得意の3ルッツ+3ループに、もうひとつダブルトゥをつけての3+3+2、ノーミスで、滑りにも迫力がありました。「ギターとオーケストラのための協奏曲」も、まあそれなりにハマッていて。スピンやステップ、スケーティングに関しては、それこそまだ子供ですし、「そつなくこなす」の域を出ない。でも、きっと荒川さんのミスを知っていたんでしょうね。言葉はすこし悪いですが、「掴みかかって引き摺り下ろす」的な、執念さえ感じる滑りでした。そのあたりは、未来のチャンピオンの資質って言うんでしょうかね。末恐ろしい選手だと思います。

 続いてリアシェンコ。私は彼女のファンでもあるんですが、ごめんなさい、やっぱり呪いました。そのせいではないと思うけど、ジャンプのほとんどが両足着氷で、不安定。それでもほかのところに響かせないで、細やかなステップ、込み入った振付で見せてくれるのは、流石ベテランという感じなんですが。そして最後のソコロワ。彼女本来の出来では無いでしょうが、無難に纏めた「幻想序曲 ロミオとジュリエット」。この曲が似合う、使いこなせるという意味では、荒川さんよりは彼女の方が一枚、上手だったと思います。

 そんなこんなで、心の中では薀蓄をたれたり、祝ったり呪ったり喜んだり、とても忙しい一日でした。そして素直に「ああフィギュアスケートって楽しい」と痛感した一日でもありました。

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